「骸様…私はもう駄目…」
「クローム、頑張るのです。あと少しの辛抱ではありませんか!」
彼女は、彼の腕の中でぐったりと倒れている。
彼は彼女の手を強く握った。
しかし、無情にも彼女の眼はゆっくりと閉じられていく。
「骸…様…」
そして、彼女の手はぱたりと落ちた。
「クローム?…クローム…………クロームゥゥゥ!!」
彼は、悲痛な叫びをあげた。
「何やってンだナッポー頭」
綱吉は骸の頭を強めに叩いた。べしんといい音がした。
「あいたっ」
「クロームにレベルの低い小芝居させるなよ」
「レベルの低い小芝居ですって、沢田綱吉!」
骸は叩かれた頭を押さえながらも、立ち上がり綱吉に右手の人差し指をビシリと向ける。
因みに、クロームはすでに骸の腕の中から出て大人しく座っている。
「聞き捨てなりません。クロームの演技の何処のレベルが低いのですか!」
「あえて言うなら、クロームにこんな演技をさせるお前の頭のレベルが低い」
綱吉は遠慮することなくズバリと言う。
しかし、骸もめげることはない。
「クフフ、言ってくれますね。僕は君よりも十倍は頭が良いですよ」
「馬鹿じゃないけどアホだろ。また隊舎壊したって聞いたぞ」
「…情報が早いですね。誰からです?」
「正一君。ラボに穴開けられたって言ってた」
「ちっ、あのメカオタクの片割れが。余計な事を」
骸ははっきりと聞こえる舌打ちをしたが、無視した。
綱吉は屈んで、座っているクロームと目線を合わせる。
「ボス、十二番隊までどうしたの?」
「クロームが心配で。ちゃんと食べてる?」
「今日の朝は麦チョコ食べたわ」
「昨日は?」
「麦チョコ」
「その前は?」
「麦チョコ…」
綱吉はため息をついた。隣を見れば、骸が体の悪そうに向こうを向いている。
綱吉が何かを言おうとするが、それは叶わなかった。
グーーー
誤魔化しようがない腹の音。しかも、綺麗な二重奏だ。
両脇にいる兄妹は顔を赤くし、クロームにいたっては耳まで真っ赤になっている。
「……プッ」
思わず小さく吹き出してしまった。
その瞬間、骸は三叉の槍を構えた。
「廻れ」
「待て!ごめん、笑ったのは謝るって!ほら!」
綱吉は持ってきていた風呂敷を見せるように持ち上げる。
「お握り持ってきたから、皆で食べよう?」
骸は納得出来ないように槍を構えたままだったが、クロームが目を輝かせているのに気付き、渋々槍を下ろした。
「別に君の施しなど受けなくとも問題ありません。明日は給料日なのですから」
「じゃあ食うな。もう四つ目だろ」
「次は梅も持ってきなさい」
骸は偉そうに言い、クロームが人数分入れたお茶を啜る。
「三日間主食が麦チョコだった奴が何言うンだか。クロームが可哀想だろ」
「ボス、私は平気」
「クローム…骸に文句言ってもいいンだよ?チョコばかり食うなとか、雲雀さんとの喧嘩を止めろとか、髪型変えたいとか」
「髪は…骸様と同じがいいから」
「クローム、流石僕の妹です!」
「食費は…いざとなったらへそくりがあるし」
「クローム!?それは初耳ですよ!?」
「流石クローム。その辺しっかりしているね」
綱吉はクロームに感心しながら付け合わせで持ってきた沢庵をかじる。
「だけど、骸が雲雀さんとの喧嘩を止めれば解決じゃん。何でやるかなぁ」
「骸様と雲の人は…犬猿の仲か…ハブとマングースか…」
「あの男が護廷十三隊に来なければいいのです」
「雲雀さんも仕事があるンだから仕方がないだろ」
「仕事って…雲の人、何してるの?」
「………………………さあ?」
雲雀さんが一体どういう類の仕事をしているのかは、実ははっきりとは知らない。ただ、あの人はあらゆる所にあらゆる影響を及ぼす。昔から分からない人なのだ。
「ともかく、喧嘩禁止!もう差し入れ持ってこないからな!」
「次は味噌汁も持ってきなさい」
「話を聞けェェェェェ!!」
そう言いながらも、また彼がくるときは味噌汁も付いてくると分かっている兄妹だった。
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17777HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『骸の貧乏話』でした。
骸の、と言うより、兄妹の、でしょうか。
あの兄妹は給料日前の何日か主食が麦チョコになるときがあります。
でも、噂を聞いた綱吉が差し入れ持っていくときがあるというネタでした。
今回のリクエストは匿名の方でした。
骸の話を楽しく書かせて頂きました。
リクエストありがとうございました!
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