道場に入った瞬間だった。

「はっぴーばーすでー、一角」



パァァァン



響くクラッカーの音。道場内は折り紙で作られた輪っかで飾り付けられ、中にいる十一番隊隊士達は笑顔で一角を迎え入れる。
その中央にいるのは……。

「さぁ、一角。お前のための宴だ」

笑顔満点の沢田綱吉四席。そう、輝くばかりの笑顔である。
嫌な予感しかしなかった。





「いやぁ、副隊長がパーティーをやりたいって言うからさ。イベント事でもないのにパーティーをやるのもテンション上がんないから弓親と考えたら、あれ?一角誕生日じゃね?って事で」
「俺の誕生日はついでかよ」

そして何でお前は副隊長にはそんなに甘いんだ。
一角は溜め息をついた。怒りこそ湧いてこないが、まさかそんな理由で自分の誕生日パーティーの開催が決定したとは知りたくはなかった。だが、あえて教えるのがこの男だ。

「ったく……」

誕生日席だと言って座らせられたのは道場の中央。周りには所狭しに御馳走が置かれており、祝う気持ちがあるのは本当の様だ。囲む様にコップを持っている隊士も楽しそうだし、入ったときに感じた嫌な予感は外れたらしい。

「そういりゃ、隊長はいねぇのか?」
「更木隊長は隊首会があるから、後から来るよ」

綱吉は一角にコップを持たせ、それにお茶を注ぎながら言う。

「酒はどうした、酒は」
「あるけど、まずは烏龍茶で。こっちにも進行的なのがあるんだよ。今日この時のために仕事を終わらせたんだから、それくらいは従ってくれ」

確かに、よく見れば綱吉には僅かながらにも疲労が見えるし、弓親は隣で欠伸をしている。何人かの隊士は隈を拵えているし、今日これほど多くの隊士が休みを取るのには修羅場を乗り越えなければいけなかった様だ。

たっぷりと注がれた烏龍茶を見る。周りの料理も、一角が好きな物ばかりだ。道場の装飾も十一番隊隊士が作ったと思えないほどの出来で、これをちまちまと隊士が作ってくれたと思うと笑みが浮かぶ。
彼等は祝ってくれているのだ。生まれてきてくれたことを。

「そうか。まっ、しゃーねーな」

従ってやるか。酒は用意されていると言うのだ。焦ることはない。今日は楽しもう。



「…………あれ?」



そう言えば、このパーティーを開催したいと言った張本人、やちるはどうしたのだろう?
きょろきょろと見渡せば、いた。弓親の影になってよく見えていなかっただけの様だ。しかし、様子が可笑しい。
やちるの性格を考えると、目の前の料理に耐えられず、すでに手を伸ばしていそうだが、彼女は大人しく座っている。それに、後ろ手に何かを隠しているではないか。

まさか、俺へのプレゼント?

いや、違う気がする。だったら彼女はイノ一番に渡しに来そうだ。しかし、やちるはうきうきとしながら何かを待っているかの様に大人しく座っている。

……消えたはずの嫌な予感がまた湧いてきた。

やちるがちらりと一角を見る。一角もやちるを見ていたので、自然と二人の目が合う。
じーと見つめ合う彼等。一角の嫌な予感は大きくなる一方で。
そしてやちるは……。



――にんまり



笑顔だった。満面の。この笑みは見たことがある。嫌な予感は爆発しそうだった。
何かの気配を感じ、一角は振り返る。その先にいるのは、先ほど烏龍茶を注いだ綱吉だ。彼も満面の笑みである。
やちると同じ種類の笑みだ。
そう、いつもの彼等。悪巧みをしている笑みだ。

「……つ、綱吉?」
「一角。これ、何か足らないと思わないか?」

綱吉は笑みのまま言う。一角は周りを見渡した。
気が付けば、隊士達も皆、綱吉達と同じ笑みを浮かべている。しかも、やちると同じように後ろ手に何かを隠しながら。
逃げることは出来ない。座っているのは誕生日席。周りは囲まれている。

「一角、何が足りないと思う?」
「足りない物って……」

一角は冷や汗を流しながら周りを見る。
用意されている御馳走。綺麗に飾られている手作りの装飾。パーティーに足りない物?
嗚呼、そう言えば……。

「……ケーキ?」

一角は一言呟いた。
綱吉の、いや、やちるや弓親、隊士達全員の笑みが深くなった。



「「「「「正解!」」」」」



一斉に後ろ手に隠していた物を彼等は出し、構えた。
彼等の手にあるものはパイケーキで。
投射する構え方で。
顔にあるのは満面の笑顔で。

「斑目三席」
「一角先輩」
「斑目さん」

隊士は一斉に一角の名を呼ぶ。

「一角」

綱吉もいつの間にかパイケーキを構えている。投げる的は決まっていた。



「「「「「誕生日おめでとう!」」」」」



全方位からパイケーキが一角に投げられた。







**********

200000HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『一角をいじりまくってるツナの話』でした!

一角の誕生日?何時だか私は知りません。設定集どっかいった…。書いてあったのかも不明です。

このために隊士の仕事を調整して終わらせ、装飾を作り、料理と人数分のパイケーキを手配した綱吉さん。
一角のためなら労力を惜しみません(笑)
更木隊長は、道場に来たらパイケーキだらけになっている一角に呆れる事でしょう。


今回のリクエストは紗成様でした!
お待たせして本当に申し訳ありません!
リクエストありがとうございました!



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