気になることがある。この数日の、一番の悩みだ。
そして、その悩みの種の一人は目の前にいる。
「どうしたぁ、阿散井。俺の顔に何か付いているか?」
十一番隊四席、沢田綱吉。俺の、上司。
「いえ…その…」
この男の満面の笑顔は注意だと、この隊では常識だ。
ことの発端は三日前。十三番隊に仕事で訪れたときだ。
阿散井にとって、十三番隊は少しばかり気になることがある隊だ。死神になってから疎遠になっている幼馴染みがいるからだ。
もし会っても、いまの気持ちでは言葉を交わすことも出来ない。今は、まだ。
しかし、遠くから仕事の様子を窺うことぐらいは出来るかもしれない。勿論、他意はない。心配なのだ。あのちょっと抜けている幼馴染みが。
だから、ちょっと周りを気にしてきょろきょろしていても、不審がらないでくれ。
十三番隊の隊舎を歩きながら、辺りの様子を見る。そうすれば隊の雰囲気がよく分かる。
十三番隊の隊員は明るく、随分と落ち着いた隊風だ。十一番隊の荒くれ共が多い雰囲気とは大違い。少しばかり羨ましい。
そんなことを考え溜め息をついていると、意外な人物を見掛けた。
「あれは……沢田四席?」
窓から見える庭では、上司の沢田綱吉と、十三番隊の志波海燕副隊長が話していた。
四席と副隊長だから、仕事で話していてもなんら不思議はない。特に沢田四席は事実上十一番隊の書類仕事を統括している人物だ。他の隊との連携書類は沢田四席の仕事なんだろう。
上司に会ったら挨拶は基本だ。上下関係の礼儀を重んじる十一番隊では特に大切なことである。自分も挨拶は大切だと思う。
だから、ここからでも挨拶しようと口を開く。しかし、言葉を発する前に、沢田四席に声を掛ける者がいた。
「海燕副隊長!沢田四席!」
女の声。聞き慣れた、女の声。
それは、幼馴染みの声だった。
「隙あり」
「え」
気が付いたら、目の前に迫るはグローブを付けた拳。避ける暇はない。そのまま吹き飛ばされる。
「がはっ」
数メートル飛ばされて転がる。痛い。顔が痛い。じんじんする。気絶をしないくらいには手加減されており、この男の技量の高さを思わされる。
「おいこら阿散井。この俺が稽古に付き合っているんだぞ。稽古中に何、ぼー、としてんだよ」
頭の上に投げ掛けられる言葉は冷ややかなものだ。大層不機嫌になっているらしい。
「何?俺が相手だと不満なのか?」
「いえ…そうでは…ないです…」
起き上がって顔を上げる勇気はない。今、俺は情けない顔をしているだろう。そんな顔は見せられない。
気配で、正面に沢田四席が座るのが分かる。きっと胡座だ。意外とこの四席は男前だ。
「……阿散井。俺、勘が良いんだよね」
「……知ってます」
「お前、俺に言いたいことあるよね」
「……」
答えることは出来なかった。答えたら負けな気がした。
「お前って、強情よね」
「そんなこと「あるだろ」……はい…」
沢田四席が溜め息をするのが聞こえる。何故か悔しかった。
「阿散井さぁ…三日前、俺に声掛けなかったよね」
「ぶっ」
この四席の勘は化け物か。本気で疑いたくなった。
「阿散井」
「…………………………はい」
返事が遅れたのは、誰も攻めないでくれ。
「俺、友達は大切にする人なんだよね」
「……はい」
今度は、比較的早く返事が出来た。
今は、その言葉で十分に思えた。
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165000HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『綱吉とルキアが仲良くしている様子を恋次が目撃する』でした!
恋次は純粋にルキアが心配。貴族になってからほとんどどうなっているか分からないから。
でも、ツナが相手なら安心かな、なんて思ってる。恋次は一角と同じくらいツナも尊敬しています。
今回のリクエストはシシキ猫様でした。
遅れてしまい、申し訳ありません。
リクエストありがとうございました!
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