「あっ、さ、沢田殿!」

見掛けたのは、本当に偶然だった。
十三番隊から十一番隊へ持っていく書類。それ自体は珍しい物ではないが、荒くれ者共が多いと言う十一番隊へ行きたいという者は少ない。そして、持っていく者に名乗り出た。
つい先日会ったばかりの十一番隊の四席。会えない可能性の方が高いが、もしかしたらと思ったのだ。

「あれ、朽木さん。どうしたの?」

結果から言えば。
これほどまでに自分の選択を褒め称えたくなったのは、朽木ルキアの人生でない。





「じゅ、十三番隊から、しょ、書類をも、持ってきましゅた!」

噛んだ。つっかえてた上、最後に噛んだ!
一気に顔の温度が上がる。きっと自分の顔は今イチゴの様に赤いだろう。沢田殿も堪えているが笑っているし、この場から逃げ出したい。
折角会えたのに何と言うことか!

「もしかして…緊張してる?俺が四席だから」
「いえ!その様なことは!」

むしろ沢田殿は話しやすい。なのに、自分はどうしてこれほどまでに緊張しているのだろうか。

「さ、沢田殿は話しやすく、と、とても好感が持て!」
「へぇ。そうなんだ。他の人の評価って面白いね」

嗚呼!否定しようと思って勢い余って好感などと言ってしまった!
急に変な奴だと思われただろうか。しかし、沢田殿を伺ってもにこにこと楽しそうに笑っているのみで、気分を害した様子も、気持ち悪がられている様子もない。
良かった。本当に良かった。沢田殿に引かれたら、恐らく暫く立ち直れなくなる。

「さ、沢田殿は、どちらへ?」
「ん?隊長室。朽木さんも隊長室だよね?一緒に行こうか」

ガッツポーズをしたかったが、心の中だけに留めるのが大変だった。

「ぜ、是非お願いします!」
「うん」

隊長室まで並んで歩ける!やった、見掛けることが出来たら上等だと思っていたのに、何という自分へのご褒美だ。明日槍が降っても良い。

「でも、どうして朽木さんが十一番隊に?いつもは男性隊士が来るんだけど。もしかして押し付けられた?」

十一番隊が避けられているのを、沢田殿も知っているのだろう。そのことが不思議がられているのだ。

「自分から志願したのです!」
「へ?何で?」

まさか貴方に会えるかもしれないからだなんて言えない。頭の中を必死で回転させてどうにかそれに答えようとする。
考えたのはほんの二秒ほどだ。自分を褒めてやりたい。

「ほ、他の隊の雰囲気を知りたくて…」
「朽木さんは真面目だなぁ。良いことだけどね。十一番隊に欲しいくらい」

嗚呼、嬉しい。海燕副隊長に初めて会ったときの様だ。この人の隣にいると安心する。そして十一番隊に来た本当の理由が不純で申し訳ない。

「さ、着いたよ」

沢田殿は隊長室の前に来たら、率先してノックをして扉を開けて待っていてくれた。女性への扱いが慣れている様で少し寂しくもあったが、優しさから来ていると気付いたらやはり嬉しい気持ちが勝った。

「失礼します」

中に入ると髪に鈴を付けた十一番隊隊長、更木剣八がソファで酒を飲んでいた。横では副隊長の草鹿やちるがお菓子を食べている。

「あっ!隊長、昼間から酒飲まないで下さいよ」
「うるせぇ綱吉。酒くらいでがたがた言うな」
「言いますよ!隊長の酒代経費から出せって言ったのは隊長でしょう!経費のいくらが酒代に消えているのか…」

沢田殿はそう言って隊長に説教を始めてしまった。流石沢田殿。隊長にも臆することなく物言えるとは。
尊敬の眼差しで沢田殿を見ていると、草鹿副隊長がじっとこちらを見ているのに気付く。

「……?」

草鹿副隊長はにんまりと笑ってからこちらにとてとてと近付く。そして近くまで来ると手でしゃがんで欲しいとのジェスチャーをする。
断る理由はないのでその通りにしゃがめば、草鹿副隊長は自分に耳打ちした。

『ツッ君格好いいでしょ』

顔がぼんっと赤くなる。口を開閉させるが、言葉が出てこない。
この小さな副隊長には一瞬で全てお見通しらしい。

『ツッ君のファン、結構いるんだ』

続く耳打ちは、始めて知る情報だった。

『そう言うことはツッ君疎いから知らないけど、十年くらい前から増えてるの。ブロマイドもあるんだよ?』
『そうなのですか!?』

自分も草鹿副隊長に合わせて小声になる。沢田殿は更木隊長を叱るのに忙しくて気付いていない。

『ど、何処に行けば手に入りますか!』
『今持ってるよ?』

草鹿副隊長が懐から取り出したのは、紛れもなく沢田殿のブロマイドで。

『ふ、ふぉぉぉぉぉぉぉ!!』
『女性死神協会公認の、最新の、限定版。いる?』
『くださるのですか!』
『うん!なんか楽しそうだから!』

震える手でそのブロマイドを受け取る。その沢田殿は目線が此方に来ておらず、隠し撮りなのは明らかだ。
だが、それでも良い!

「あ、ありがとうございます!」
「え、あれ?副隊長、朽木さんと何話してたんですか?」

思わず大きな声で言ってしまったが、咄嗟にブロマイドを懐に隠す。

「へへ、ツッ君には内緒!」
「はい!内緒です!」
「ふーん。まぁ、仲良くなったみたいだから良いけど」

部屋を退出するとき、また新しいブロマイドを用意しておいて下さると草鹿副隊長と約束した。
嗚呼、今日はなんて良い日だろう。





帰ったらブロマイドが他の隊士に見付かり、羨ましがられた。
それが理由で沢田殿の話題の友が出来たが、沢田殿には内緒だ。







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150000HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『女性陣がツナにキュン』でした!


ルキアはツナが大好きだよってね。
女性死神からのツナの人気は結構あります。炎真も。ちょっとマイナー派で各隊長ほどではありませんが、それなりに有名人。
そんな設定。


今回のリクエストは匿名様でした。
女性死神がルキアしか出せず、申し訳ありません。
リクエストありがとうございました!



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