『駄目だ!』

この世界に来て、初めてあれほどの大声を出した。今までの人生を振り返ってみても、上位に入る声だったと思う。それほどの叫びだった。

だから、言われた方も驚いただろう。
……驚き余って喧嘩になっただけだ…。





「あー…ツナ?どうした?」

銀時は綱吉に慎重に声を掛ける。慎重な理由は簡単だ。綱吉がもの凄く落ち込んでいる。
ソファに座り、肩を落とし、頭を両手で抱えている。どんよりとしたオーラ付きだ。

「…いえ…」

いえ、じゃない。絶対何かあっただろう。銀時が買い物から帰ってくるまでに、確実に何かあった。感じゃなくても、綱吉を見れば分かる。
しかし、買い物は三十分ほどで帰ってきた。短い時間の間に、綱吉をここまで落ち込ませるものは…。
そして、あることに気付く。

「ツナ。神楽はどうした」

その言葉に、綱吉はぎくりと反応した。そして、眉間に皺を寄せている顔をゆっくりと上げた。
皺を寄せているのは、不機嫌だからではない。目は潤んでいる。泣きそうなのを我慢しているのだ。

「…喧嘩したのか?」
「…俺が…悪いんです…でも…」

綱吉は再び頭を抱えてしまった。

「あぁぁぁぁぁ!何ですぐ追いかけなかったんだろ!」

綱吉はそう言って、頭を抱えたまま頭を右に左にと振る。
銀時は判断する。
どうやら、喧嘩して、それはすでに終了しているようだ。





「この指輪を神楽が填めようとした?」

綱吉は足を抱えて、膝に額を当てる形で下を向いている。

「…それくらい良いじゃねぇか?」

指輪を填めるくらい、良いではないか。少しごついが、綺麗な指輪だ。年頃の娘ならちょっと填めてみたくなるだろう。
綱吉がそれを嫌がるような性格には思えないが、どうしてだろうか?

「これ、曰く付きだって話はしましたがよね?」
「おう」
「なんか、血族?しか認めないらしくて、それ以外が填めると…」
「…填めると?」

銀時はごくりと唾を飲み込んだ。

「血をあらゆる所から吹き出します」
「恐ッ!!」

まさかそんな危ない物だったとは。ただの指輪ではないとは聞いていたが、そんな呪いのアイテムのような力があるとは思わなかった。

「え?何?マジそれ」
「マジですよ。こんな嘘付きませんよ」

綱吉は顔を上げた。その顔はもう泣きそうではないが、まだ落ち込んでいるようだ。

「それで、神楽が填めようとしたのを止めたと」

それも、かなり強く止めてしまったのだと言う。神楽にしてみれば、ほんの出来心だったのだろう。それをそんなに強く止められたのは予想外で、また、それくらい良いではないかと言う思いもあったのだろう。怒って出て行ってしまったのだと言う。

「こんな指輪がねぇ」
「間違っても填めないで下さいよ」

銀時はボンゴレリングを手で弄んだ。こんな指輪が。そんな思いだった。

「まぁ、それを神楽にも言ってやれ」
「はい…」
「言えば、神楽も分かるさ。馬鹿じゃな…いや、馬鹿だが、それくらいは分かるさ」
「はい」

綱吉は立ち上がった。もう、ただ落ち込んではいない。

「俺、捜してきます」
「そうか」

綱吉はそう言って出て行く。彼ならば神楽を見付けて、仲直りが出来るだろう。

「全く…」

銀時は天井を見上げた。

「やっぱまだまだガキだな」

一人、子供を見守る親の気分だった。







**********

94000HITキリ番リクエスト
銀色アサリで『ボンゴレリングをはめようとしてツナに怒られる神楽』でした!


本編の「喧嘩と仲直り」をイメージしながら書きました。
ツナは喧嘩してもたいていは自分から謝って、相手も謝ってで仲直り出来るイメージがあります。でも、たまにイジはったりしてね。


今回のリクエストは夕陽様でした。
神楽が出てきていませんが、どうぞもらってやって下さい…。
リクエストありがとうございました!



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