激しい銃撃の中。死んだと思った。もう駄目だと。

助けてくれたのは、自分よりも年下の、異世界から来た仲間だった。





「神楽ちゃん、そろそろ寝たら?」

もうじき日付が変わる時刻。新八は神楽に言った。
神楽は「うん」と答えたが、上の空で動く気配はない。壁に背を預け、足を抱えて座り、ただ真っ直ぐと見つめている。
まだ眠り続けている綱吉を。

「神楽ちゃん…」

真選組で起きた反乱から二日が経った。
伊東の死で、反乱が終結した。終わったと思い、肩の荷を下ろした途端だった。綱吉が倒れたのは。
まるで糸が切れたかのように、綱吉は意識を失った。すぐ近くで彼が倒れたとき、血の気が引いた。頭からは血が出ていたし、打ち所が悪かったのかと不安だった。
しかし、真選組お抱えの医師に診て貰ったところ、傷の一つ一つは致命傷ではなく、眠っているだけだと言う。いつ目覚めても可笑しくはないらしい。
しかし、二日経っても彼は目覚めていない。

「綱吉君…」

新八は神楽の隣に座った。
新八も、神楽も、この二日間はまともに寝ていない。あの反乱の後に寝ていないと言うのは辛いものがあるが、それ以上に綱吉が目覚めないことの方が辛かった。

少し前までは獄寺と山本もいたが、今、彼等は真選組に戻っている。真選組も後処理で猫の手も借りたい状況なのだ。新人にも仕事は大量にある。
迎えの沖田が来ても、彼等は綱吉が起きるまで待っていると言っていた。沖田も連れ帰るのは面倒だったのだろう。彼も一緒に万事屋にいたのだが、サボりがばれてお叱りの電話が来てしまったのだ。
流石に戻らないとヤバイという話になり、戻るか残るかで軽く口論になってしまった。平行線で進展が見えない言い争いだったが、「寝ている奴の側で騒ぐな」と言う銀時の言葉で、獄寺達は渋々と仕事に戻った。明日の…もう今日だが、昼には再び来ると言っていた。

銀時はコンビニに行っている。二日を大人数で過ごしたため、買い溜めをしていなかった食料が底を尽きたのだ。綱吉が目を覚ましたときに何もないのではあんまりなので、銀時がせめて明日の分までの食料の買い出しに出た。

「銀さん、遅いね…」
「うん…」

神楽は答えるが、その声には力がない。ちらりと盗み見をすれば、瞼が半分落ちている。いくら強がっていても、まだ彼女は子供なのだ。
彼女も、まだ眠っている彼も。新八よりも年下の子供なのだ。

新八は何も言わずに立ち上がり、隣の部屋に向かう。神楽の寝床(押入)を開け、掛け布団を一枚掴んで部屋に戻る。神楽は目を擦っている所だった。

「新八?」
「はい、神楽ちゃん。布団」

どうせ言ったって聞かないのだ。ならば、せめて布団を使って欲しかった。新八は神楽の肩に布団を掛ける。神楽は大人しくそれを受け取った。
新八は再び隣に座った。二人の間に会話はなかった。



チクタク チクタク



部屋の時計の音が、いやに大きく聞こえた。暫くすると、それに規則正しい寝息が加わる。
神楽は寝てしまっていた。やはりすでに限界だったのだろう。疲れたところに布団の誘惑には勝てない。
新八は、それでも起きていた。



チクタク チクタク



一人で座っていれば、睡魔が押し寄せてくる。新八も船を漕ぎ始めた。銀時が帰ってくるまでは起きていたいが、睡魔は手強い。
瞼が落ちようとしているときだった。その声がしたのは。


「そこで何故お八つ…」


どんな寝言だ。しかし、突っ込む気は起きなかった。
二日水を飲んでいなかったから、声はがらがらだった。しかし、それは待ち望んでいた声だった。

「綱吉君」

新八は声を出した。それは声を掛けたのではない。思わず声に出してしまったのだ。
目覚めた綱吉はゆっくりと首を動かして、顔を此方に向けた。

「新八…君?」
「そうだよ、大丈夫?」

新八はゆっくりと綱吉の近くに寄る。綱吉はまだ意識がはっきりとしないのか、ぼーとしている。

「何処か痛いところはない?喉は渇いてる?水持って…」
「みんなは…」
「え…?」



「みんなは…大丈夫?怪我は?」



綱吉はそう言うと、自分で言ったその言葉で気付いたのかはっとして、身を起こそうとする。しかし、怪我が痛いのだろう、途中で顔を歪めて腹を押さえる。

「あっ、寝てて!みんなは大丈夫だから!声も酷いし、水持ってくるね」

新八は、綱吉の肩を軽く押してまた寝かせた。そして即座に水を持ってこようと立ち上がる。
水を零さない範囲で最速で持ってくれば、綱吉の視線は神楽に向いていた。

「神楽ちゃん、寝てるの?」
「うん。さっきまでは起きてたんだけどね。待ちくたびれちゃったみたい」
「待ちくたびれる?」
「綱吉君、二日も寝てたんだよ?」
「…………うそぉ」
「あはは、嘘だったら良かったのにね」

綱吉に手を貸して、今度はゆっくりと起きるのを手伝う。急に動かなければ傷も痛まないようだ。自分でコップを持って飲むことが出来た。

「みんなは…」
「大丈夫だよ。みんな大丈夫。むしろ、今まで綱吉君が起きなくて心配してたよ」
「そっか…良かった」

綱吉はそう言って、安心したように笑った。

「銀さんは?」
「今買い物に行ってる…綱吉君、みんなのことばっかりだよ」
「あ…でも、それが一番心配で…」

綱吉は苦笑いをして、バツが悪そうに顔を掻く。それは怒られて困っている子供そのままだった。

「…もうじき銀さんも帰ってくると思うけど、怪我人は寝てないと」
「でも…」
「寝てないと」
「せめて銀さんの顔を見てから…」
「寝てないと」
「いや、だから…」
「寝てないと」
「……はい」

綱吉は枕にぼすんと頭を落とした。新八は布団を掛け直す。

「きっと次に起きたらみんなに怒られるよ?」
「ですよね…」
「僕も含めてね」
「はい…」
「お休み」
「お休みなさい」

綱吉は目を閉じる。すぐに寝息へと変わる。新八は綱吉の飲んだコップを片付けてからまた神楽の隣に座った。



『みんなは…』

目が覚めてから一番に気に掛けるのは、自分のことではなく仲間の事。


年下だけど。
弟みたいに思っているけど。

「ホント…適わないなぁ」


新八は少し悔しそうに、少し悲しそうに、そして少し嬉しそうに呟いた。







**********

53333HITキリ番リクエスト
銀色アサリで『ツナのボスっぽいところを目撃』でした!

ただの新八がおかんの話に!?
自分のことよりも仲間を大切に思っている綱吉を見て〜的なつもりだったのですが…。
時間軸は真選組動乱編です。三章の十五話前、ですね。

今回のリクエストは匿名の方でした。
リクエストと違うじゃんと言われても仕方ない出来に…。でも新八おかんは書いていて楽しいです…。
リクエストありがとうございました!



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