よく晴れた日だった。心地よい風が窓から入ってきて、それには外で咲いている花の香りも含まれている。こんな日にはゆっくりと昼寝をしたいものだ。

もっとも、部屋の中はそんなのんびりした空気ではなかったが。

「ツナ…私、もう駄目…」
「ほらほら、頑張れ乱菊さん。あと三分の一くらいですよぉ」

縄で椅子に縛り付けられている我が隊の副隊長は、げっそりとした顔で机に突っ伏している。
それを日番谷は呆れた眼差しで見ていた。勿論、こんな荒技をするのは自分ではない。新しく入った元十一番隊所属、現十番隊三席、沢田綱吉その人だ。

「ツナ…お願い、休憩を…」
「そうですねぇ、この書類が全部終わったら考えても良いですよ」
「酷い!鬼!悪魔!人でなし!」
「はいはい」

そう言って綱吉は一目も乱菊にやらずに自分の仕事を片付けていく。いつも思っているが、彼は本当に書類仕事が速い。十一番隊で鍛えられたというその手際の良さには見習いたいものがある。

「ん?沢田、この書類、七番隊のものだぞ?」
「あれ、本当だ。仕分けの時にでも紛れたのかな?俺が今やってる書類が七番隊に持って行かなくちゃならないのだから、後で一緒に持っていきます」
「助かる」
「私は無視ィ?隊長ォ、ツナァ、私も助けて下さいよぉ」

「「仕事しろ」」

実を言うと、彼女が椅子に縛られているのは初めてではない。今回で確か五回目だったか?その度に今回のような弱音を吐いている。
最初は少々同情もしたが、懲りない乱菊を見ていればそんな気も失せる。今では助け船を出すことはない。

「だいたい、乱菊さんが悪いンですよ?仕事溜めるから」
「そうだ。溜めなきゃ沢田も強行手段には出ねぇよ」
「いや、意外とストレスは発散出来ますから定期的にはやりたい気もします」
「沢田!?」
「冗談です」
「それはストレス発散になるのがか?定期的にはやりたいというのがか?」
「隊長は真面目だなぁ。ユーモアですよ。お茶目ですよ。ジョークは大切ですよ?」

そう言って綱吉はハハハと笑う。だが、その笑いが何処か乾いているように感じるのは俺だけだろうか?

「と、ここまでは冗談で」
「どこからが冗談だ!?」
「もう少しで休みが貰えそうだから、早く終わらせたいンですよ。面倒な仕事が来たら休みが遠ざかるので、その前に終わらせたいのが本音です。友達に会いに行く約束してますし」
「嗚呼、この間来た、ルーチェって人の孫娘か?」
「はい、ユニです。久しぶりだから、会うのが楽しみなんですよ」

綱吉はそう言って笑いながらお茶を啜る。その顔は先ほどの乾いたものとは違い、本当に嬉しそうだ。

「…休みなら、言ってくれれば俺がやるぞ?」
「隊長!休みを下さい!」
「松本、お前は駄目だ」
「何でですか!」
「自分の普段の仕事態度と今の状態を見てよくそんなこと言えるな!」

日番谷はそう言って怒鳴り、言い返せなかったのか乱菊はペンを持ったまま項垂れる。先ほどの弱音からまだ一枚も書類が進んでいない。

「有り難いお言葉に嬉しく思いますが、俺は仕事が残っていると思うと後ろめたいので、終わらせますよ。その方が休日も心おきなく楽しめますし」
「沢田…お前、損する性格だと思うぞ?」
「いやいや、隊長ほどでは」

日番谷と綱吉は目を合わせて笑い合う。それに混ざれない乱菊は不満そうにペン回していた。

「さぁ、あと少しです。頑張りましょう!」

綱吉は張り切って仕事を再開しようとする。

それはある訪問によって打ち砕かれた。

「沢田三席!」

ノックもせずに入ってくる隊士。その慌てた顔には緊迫した様子が見え、日番谷は何事かと立ち上がり、乱菊は顔を上げる。
しかし、綱吉には嫌な予感がした。そして、この予感は今まで外れたことがない。恐らく、今回も。

「十二番隊でまた雲雀様と六道三席が暴れて…」
「他の人当たって下さい」

綱吉は言葉を遮り、その隊士も見ない。我関せず。あくまで自分の仕事である書類にペンを走らせている。
だが、隊士の次の言葉でその手は止まった。

「いえ、その…大変言いにくいのですが、その戦いの被害で沢田三席に持ってきて頂いていた書類が燃えまして…」
「……書類?」

綱吉は顔をゆっくりと上げて隊士を見る。その顔には引きつった笑みが張られていた。唇の口角はピクピクと動いており、無理をして笑っているのがバレバレだ。

「それって…昨日持っていった?」
「はい…それを見た右近殿が、『沢田三席を呼んでこい。この書類のことを言ったら、十分でこの場を治めてくれる』と…」
「ふっ…十分…?」

綱吉は部屋の窓を開ける。隊士は何をしているのか分からないようだが、日番谷と乱菊は察した。それを裏付けるように、綱吉は手袋をはめる。
確かに彼の場合、その方が早いだろう。

「二分だ」

彼は飛んだ。両手にオレンジの炎を灯して、一瞬でその場から消えた。

「嗚呼、その騒ぎの当事者に同情するわ」
「全くだ」



「俺の休みィィィィィ!!」



綱吉の叫びは青空に吸い込まれていった。







**********

44444HITキリ番リクエスト
黒色アサリで『番外編』でした!

日番谷視点のつもりだったのですが、あまりそんな気がしませんね…。

綱吉の休みは家でゆっくりするよりも、友達や家族と過ごすことに使われます。
昔からの友達や、新しく出来た友達に会いに行ったり、エンマに会いに行ったり、後輩の修行に付き合ったり。
そんな感じに過ごす彼は楽しそうです。


今回のリクエストはみりあ様でした!
リクエストありがとうございました!


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