私はマルクト軍の一軍人です。
配属されてから日が浅く、まだ経験不足は否めません。それでも、これから成長していく予定です。

本日の任務は、言ってしまえば雑用です。
先日マルクト軍国家情報法第一条第……第何項か違反で逮捕された犯罪者と、マルクト皇帝の懐刀と称される大佐との面会の間の見張りです。

預言が廃止され始めたり、長年敵対していたキムラスカと同盟を結んだり、世の中が変わってきいます。それでも、軍人が上の命令に従うことは変わりません。懐刀の大佐さんの見た目も変わりません。
噂ではあの人は四捨五入すると四十だと聞きましたが、間違いだと思っています。

面会の間の見張りと言っても、何も起きなければ犯罪者と大佐が部屋で面会をしている間、扉の前で待機しているだけです。犯罪者が逃亡を図ったらまた話は違って来ますが、一緒に見張りをしている先輩の話だと面会している大佐は死霊使いと恐れられる凄腕軍人で、私達が動くまでもなく逃亡を図る犯罪者は消し炭にされるだろうとの事です。
噂では犯罪者と大佐とあと皇帝は幼馴染みと聞きましたが、幼馴染みを消し炭にする外道はいないと思うのでその噂も間違いでしょう。

マルクト軍基地本部前では何人かの若者が大佐を待っているそうです。
噂では彼等はキムラスカの王族だったりマルクトの貴族だったりローレライ教団の軍人だったりするそうです。何ですか、そのメンツは。ありえないでしょう。
世の中には間違いの噂が山ほどあります。気を付けねばなりません。

一緒に見張りをしている先輩が、他の軍人に呼ばれて持ち場を離れてしまいました。どうやら何か問題が起きたようです。でも、呼びに来た軍人は焦った様子ではありませんでしたし、先輩も落ち着いていました。すぐ戻ってくるでしょう。しかし、一人になってしまいました。
先輩がいるからと言って仕事中に話をする訳ではありませんが、気が休まらないものです。真面目に直立不動の構えでしたが、先輩がいなくなり、一人だと気が緩みます。見張りでも立っているだけなので少々暇です。
ちょっと扉に寄り掛かってしまいました。立っているのも疲れるものです。しかし、こんなのを先輩に見られたら怒られます。意地悪な人にバレたら減給されるかもしれません。すぐに離れるつもりでした。

中の話し声がちょっとだけ聞こえました。



「……記憶は残るのですよ」

「いえ、記憶しか残らないんですよ」



犯罪者と大佐の会話でした。
勿論、私には意味が分かりません。聞こえたのもその二つだけで、続きが気になっても先輩が戻ってきたので再び扉に寄り掛かることも出来ないのです。

犯罪者と大佐の面会は間もなく終わりました。



噂では、皇帝の懐刀と称されて死霊使いと恐れられる大佐は血も涙もない人らしいです。
でも、部屋から大佐が出てきたとき、眼鏡が光り、瞳は見えませんでしたけど、でも、何となく、何となくですけど、少なくとも、無表情には見えませんでした。
噂のように血も涙もない悪魔の化身には見えませんでした。

世の中には間違っている噂が山ほどあります。なので、せめて私は間違っていない噂を流したいものです。

面会が終わったときの大佐の顔を表現する言葉を私は知らないので、この噂は流さないことにします。
たぶん、一生流すことはないのでしょう。





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息抜きで書いたTOAです。

ネビリムを倒した後のディストとジェイドのサブイベントの会話。
最後のセリフにジェイドの色々な気持ちが込められていると思いました。
名もない第三者視点で書くのが結構好きです。



20120324



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