「いいだろう。決着をつけよう」

キリトはよ。俺がこの死のゲームSAOを始めた時、初めに声を掛けた奴でな。ベータテスターだと思って声を掛けたらやっぱりそうだった、ってな、そんな理由で始まった関係だよ。
んで、戦い方やら技の出し方やら教えてもらってな。今思うと、贅沢な師匠だったよ。何て言ったって、今じゃ前線に立つ唯一のソロプレイヤーに、戦いのレクチャーをしてもらってたって事なんだからな。俺が今まで生き残れたのは、キリトの最初のレクチャーがあったからだな。じゃないと、一層のザコ敵に殺されてたろうな。

「ここで逃げるわけには……いかないんだ……」

キリトはよ。良い奴なんだよな、これが。何時もはツンツンしていやがる一匹狼を気取ってる奴だが、俺は気付いてたぜ?彼奴が本当は仲間を求めてるって。だから七十四層でアスナさんと一緒にいるキリトを見た時は、そりゃぁ嬉しかったさ。ああ、コイツはもう大丈夫なんだな。誰かとパーティーを組めるようになったんだな。
親父臭いって思うだろうが、本気で俺は安心したんだ。何時か、誰も見ていない所で、コイツは死んじまうんじゃないかって。俺は気が気じゃなかった。たまにフレンド登録を見て、彼奴は生きてる、って確認していたくらいだ。

「必ず勝つ。勝ってこの世界を終わらせる」

クリスマスのあの日。レアアイテムを俺に渡した時キリトの顔を見た時、ヤバいと思った。彼奴がいたギルドについては、聞いていた。キリトがそれをめっちゃ自分のせいだって思っている事も知っていた。だから、ヤバいって。
キリトに言った、お前は生きろよって言った言葉は本心からだった。たぶんよ、キリトと俺、どっちかしか助からないってなったら、俺はキリトを助けるぜ。キリトは生きてて欲しい。あの時、本気で思ったんだ。
俺のあの時の言葉が、全くの無意味だったとは思っちゃいない。キリトの奴、今にも最新の層に行ってボスに挑みそうだったからな。勝つためじゃない、死ぬために。そんなの、俺は嫌だったんだよ。
まあ、一番の生きる切っ掛けは俺じゃないだろうがな。無意味だと思ってなくても、それほどは自惚れてねぇよ。だけどな。それでもな。生きてくれて嬉しかったよ。あの時の夜が、キリトの一つの山場だったろうからな。

「あの時、お前を……置いていって、悪かった。ずっと、後悔していた」

キリトがくれたレアアイテムな。俺は彼奴のために使おうって決めてたんだ。そりゃあ、仲間の誰かが死んだら、死ぬ瞬間に使うだろうけどよ。でも、もし大勢と一緒にキリトが死んだら、彼奴を助けようって。誰か一人しか助からないなら、彼奴を助けようって。

「うおおおおおおおおお!」

なのによ。身体が、動かねえんだよ。麻痺状態なんだよ。何でだよ。アスナさんは、キリトを助けたんだぞ。それで、死んじまっても彼奴を気遣ってたんだぞ。ごめんねって。
動けよ。クリスタル無効なんざ知るか。麻痺状態なんか知るか。動いてくれよ、俺の身体!

――――パリィィィィィン

キリトは砕けた。ヒースクリフも。
部屋に響く、ゲームはクリアされました、という機械音。
外にいる連中はどんな顔しているだろうな。何て言ったって、クリア何てまだまだだった七十五層を攻略してると思ってんだ。予想外過ぎる吉報に、歓喜の涙を流してっかな。やっとデスゲームが終わった、生きて帰れる、ってよ。
だがよ、七十五層で生き残った奴は違う。誰も笑みを浮かべられなかった。
何人も死んだ。それに、今、此処にいるプレイヤーは、多くがヒースクリフに何らかの恩もあっただろう。アスナさんに好意を持っている奴だっているだろう。
だけど、何より。自分が死ぬ時になりながらも、剣を放さないで戦ったキリトに。此処まで来ているトッププレイヤーが何も感じないはずがなかったんだ。
俺が麻痺で倒れてる位置からは、エギルの顔がよく見えた。彼奴は泣いていた。男泣きだ。鼻水滴ながらよ。酷い顔だぜ。俺も人の事言えねえけどな。同じ顔してるから。
キリトの名前を叫んでも返事はない。体力ゲージが消滅し、オブジェクトが砕ける音が響いたのを最後、キリトは、アスナさんは――。



目を開いたら、白い病室だった。
二年間装着していただろう、ナーヴギアを外す。動かした手は、自分の手とは思えないほど、細くなっていた。過ぎ去っていた時間を感じる。

帰ってきた。あの世界から。四千人の死を結果として残して。その中に、何人の知り合いが含まれているか。何人の戦友が含まれているか。

泣いた。泣いた。今まで生きてきた中で、一番泣いた。廊下が騒がしくなっても、看護師が来て何か訊いてきても、泣いていた。

戻ってきた世界で、俺は最初に泣いた。





**********

だいぶ前に最後の方まで書いて、そのままだったSAOの短編です。

一巻の最後、クラインはキリトが死んだと思ったんじゃないかな、と思います。
キリトはエギルには連絡したけど、クラインには…ってなって、クラインでいろいろ考えたら…。
きっと、思わぬ戦友からの連絡で優しい彼はまた泣くんだろうなぁ。

クライン好きだよぉ。最近出番ないけどな!



20121103


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