月明かりしかない夜道を二人は歩いていた。

一人は逆立つ茶髪を持つ少年。
もう一人はとあるフルーツを思い出させる特徴的な髪型を持ち、右目に眼帯をした少女。

少年の名を沢田綱吉、少女の名をクローム髑髏といった。

「ボス…もうここまでで大丈夫よ?」
「もう遅いし、黒曜ランドまで送るよ。」

夜、綱吉がコンビニに行ったらクロームもコンビニに買い物に来ていた。
彼女は今日並盛に来ていたらしく、帰りに麦チョコを買おうとコンビニに寄ったらしい。
そしてそのまま一人で隣町の黒曜ランドまで帰るというので、送っていくと申し出たのだ。

「流石に女の子を一人でこんな夜道帰すのは心配だし、危ないよ」
「でも、私一般人相手に負けないわ」
「いや、分かるけど…」

確かにクロームが強いことは知っているけどこのまま帰したのがリボーンにバレたらマフィアは女を大切にするもんだとか言って殴ってくるに決まってるし俺はマフィアになんてならないけど俺だってリボーンの制裁抜きにしてもこのまま帰すのは男としてどうかというかもしここでなにも言わないではいさよならということをしたら後味も悪いし後悔すると思うしやっぱ…………

綱吉はまるで一人言のように送る理由を長々と呟いている。

クロームはそれを横目で見て、小さく笑った。

「ボスは優しいのね」

小さな声で言ったので綱吉は何と言ったのか分からなかったようだ。
不思議そうにしていたが、クロームは言い直しはしなかった。

「きちんとご飯食べてる?今日の夕飯はどうしたの?」
「今日はお小遣い前でお金があまりないの。だから麦チョコ」
「麦チョコって…ちゃんと食べなきゃ駄目だよ。今度またお握り持っていくね」
「ボス…お母さんみたい」
「それはあまり嬉しくないなぁ」

二人はわずかな話をしながら歩く。
多くは話さない。だが、彼が自分たちのことを心配してくれていると感じられるこの会話がクロームは好きだった。

「犬は風呂入ってる?」
「まだ嫌がってる…千種がこの間あまりに入らないから、怒って水風呂に放り込んでた」
「もうすぐで冬なんですけどぉぉぉ!?」
「すぐにお風呂で暖まったから、風邪は引かないですんだ」
「仕方ない奴だなぁ」
「どっちが?」
「どっちも」
「……………」
「……………」

話していると、ふと訪れる沈黙。
このあと、ボスは決まって同じことを聞く。

「………骸の様子はどう?」
「変わらない。たまに夢で会って、犬や千種のことを聞いてる」
「クロームのことは?」
「私のことも。…………ボス」

私は立ち止まる。少し進んだ先でボスも立ち止まり、こちらを振り返る。

「骸様は、ボスのことも聞いてる」
「あいつ、まだ俺を乗っ取るの諦めてないんだな」
「………ごめんなさい」
「クロームのせいじゃないよ」

それでも私はまた謝った。
骸様はボスを乗っ取ることを望んでいる。
そして骸様は私の全て。私に新しい名をくれて、仲間をくれた。
だけどボスを乗っ取れと言われたら、私は………。


私たちはまた歩き出した。今度は無言だった。

ボスを乗っ取ることに成功したら、骸様は嬉しそうに笑うのだろうか?
犬は?千種は?そして私は?
その時にならないと分からないなんて言わない。
私は笑うことは出来ないだろう。

骸様が悲しかったら私も悲しい。
骸様が苦しかったら私も苦しい。
骸様が嬉しかったら私も嬉しい。
その筈なのに…。

ボスがいなくなることを考えるのが辛い私がいる。
この感情は何なのだろう?

何か言わなくちゃいけない気がするが、言葉がでてこない。
言葉を探して色々考えていると、泣きたくなった。
私はボスに何が言えるのか分からなかった。

ボスはどんな表情でいるのかと思い、横を歩いている彼を見る。
すると、自然とあるものが目に入った。

「あっ………」
「ん?どうしたの、クローム」

こちらを見るボス。そして彼の後ろには空で優しく光るとある星がある。

私は昨日読んだ本を思い出した。
昔の作家が訳した言葉。
今まで様々な本を読んだが、あれほど印象に残った言葉は久しぶりだった。

「ボス」
「何、クローム」


「月が、綺麗ね」


ボスは後ろを振り返り、輝く満月を見た。
そして本当だね、と優しく笑う。

あなたはこの言葉の意味を知らないでしょう。失礼かもしれないけれど、あまり本は読まなそうだから。
私はそう思ったから言ったの。

私の気持ちはこの言葉通りじゃないのかもしれない。
だけど月を見たら、あなたに言いたくなった。

今、あなたがこの言葉の意味を知らなくてもかまわない。
知らない今だから、あなたに言える言葉。

あなたが意味を知ったとき、どんな顔をするの?
その時、私はそばに居るの?

居たらいいと願う十五夜の道。






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夏目漱石のネタ。
初めて知ったとき深いと思った…。
もう一人の訳もいつかやりたいな。


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