第五章 第十三話     89/115
 


屋敷が騒がしい。外からは自警団百華の者達の怒鳴り声が聞こえてくる。その内容から察するに、どうやら侵入者がいる様だ。
地球人にもまだ夜王鳳仙に喧嘩を売る度胸がある者がいたとは。どれくらい保つものか。
神威の髪が反応している。ぴりぴりとした空気は気持がよい。此処が戦場へと変わっていく気配だ。

「たいした騒ぎだね」
「アンタが起こしてくれた騒ぎよりマシだろう」

阿伏兎は神威の前で左腕の手当をしている。
神威と鳳仙の殺し合いに割り込み、腕一本で済んだのは運が良かった方だろう。神威の方を止めた云業は命を落とした。もっとも、神威にはそれを気にしている様子はないが。彼はいつも通り顔に笑みを浮かべている。それは、云業を殺したその時も変わらなかった。

阿伏兎は神威が最初から鳳仙と戦う心積もりだったのを指摘する。神威もそれを悪ぶれることなく肯定する。
戦いのために動く。それは神威にとって自然な事だった。

「おかげで取り引きも何もメチャクチャだ。駆け引きの道具も騒ぎの最中に逃げちまう始末。この部屋に放り込んどいたガキも居ない。アンタが面倒を起こすとろくな事がない」
「あー、あの子供達のことか。スッカリ忘れてた」

鳳仙への駆け引きのためのガキは兎も角、あの茶髪のガキはアンタの気紛れで連れてきたんだろうが。
そう言ってしまえたらどんなに楽だろうか。そんなの言っても仕方がないから言わないが。この団長が気紛れなのは今に始まったことではない。一々気にしていたら胃に穴が空く。

夜王は強い。夜兎を束ねていた先代第七師団団長の名は伊達じゃない。春雨と夜王が戦争を始めたら、数の差なんて関係ない。此方の被害は甚大だ。
勝手に戦争を始めたとなれば……元老に殺されるのは俺等だな。

「その時は……元老も俺が皆殺しにするよ」

そんな事を冗談でも何でもなく、笑顔で言い放つのが当代第七師団団長だ。部下の苦労が窺い知れる。そしてその部下の筆頭が、左腕を失った自分なのだから世話無いな。

「我々下々の者は団長様の尻拭い。いや…海賊王への道を切り拓きにでもいくとしまさァ」

さて、もう取り引きにあのガキは使えない。なら、侵入者を始末しに行くとしよう。全く、ちゃらんぽらんな上司を持つと辛いぜ。





神威は阿伏兎に手を振って見送った。
阿伏兎は本当に世渡りが上手い。組織に属する者として自分の役割を分かっている。最も、不器用だから幸せにはなれないだろうけど。

「俺はどうしよっかなぁ」

侵入者には特に興味はない。阿伏兎が行っただろうし、俺も行くほどではないだろう。

子供二人はどうしているのか。侵入者よりも興味はあるかな。
子供二人、特にあの茶髪の子供の行動には少しばかり興味がある。鳳仙の懐に連れてこられたあの子供は、一体どうするだろうか。

攻撃を避け続けたあの子供。だけど、それだけではないだろう。夜兎の本能が告げている。あの子供には他にも何かある。

「暇潰しにはなるかな」

どうせ暇だから、鳳仙がお熱の女にでも会いに行こうか。子供だと言うのも探して、連れて行ってみよう。

「ふぁ……眠い……」

どうせ、ただの暇潰しだ。






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