第五章 第十話     86/115
 

「これはこれは。珍しいご客人で」

部屋の中からは話し声がする。

「春雨が第七師団団長、神威殿」

ああ、あの綺麗な顔の兄ちゃんは神威って言うのか。仲間の二人は『団長』って言っているから、初めて知った。

中からの話し声は聞こえたままだ。一番強いんだろう『団長』は中で話していて今はいないけど、逃げることは出来そうにない。
オイラは両腕を身体ごと縛られているし、ちょいと横をちら見すれば、おっかない男二人がオイラを見張っている。あ、今目があった。睨まれた。超怖ェ。

大人しく二人に挟まれながら襖の前で待機しているしか、今のオイラには出来そうにない。少なくとも今は逃げるチャンスを待った方が良いんだろうな。

――助けが来るかもしれないし。

吹っ飛ばされた万事屋や月詠達は無事だろうか。万事屋の人達は人一倍頑丈だし、月詠は恐れられている百華の頭だ。生きていると思うが…。

(ツナ兄……大丈夫かな)

綱吉は今此処にはいない。この大きな館の一室――恐らくこの男達に割り当てられた部屋だろう――に放り込まれていた。
その部屋から連れて行かれるときまで必死で呼び掛けていたら、出るときには僅かな反応があった。彼も大丈夫だろう。ひ弱そうに見えて何だかんだ、彼も頑丈な人だ。きっとすぐに目を覚ます。

「手土産もこの通り用意してあるんです。きっと喜んでサービスしてくれるでしょ?」

襖がスゥっと開いた。
中では男二人が向かい合って話していた様だ。『団長』が此方に背中を向けていると言うことは、相手方が此方を向いていると言うことで…。

ちょっと顔を上げてすぐ目線を外した。めっちゃくちゃ睨まれている。
きっと、たぶん、いや絶対、この男が鳳仙だ。雰囲気が常人と違うもん。あれが歴戦の猛者って奴だろう。

「嫌ですか。日輪を誰かに汚されるのは。嫌ですか。この子に日輪を連れ去られるのは。嫌ですか。日輪と離れるのは」

何を考えているのか、『団長』は鳳仙にそんなことを言い出した。鳳仙が黙れと言っても黙らない。
挑発をしているのだ。子供のオイラにも分かった。『団長』は立ち上がり、ゆっくりと鳳仙に近付き、酌をする。
そして――。

「酒に酔う男は絵にもなりますが、女に酔う男は見れたもんじゃないですな。エロジジイ」

その言葉までで十分だった。



ドゴォォォォォ



鳳仙が左手を突き上げる。それを避けられず、彼は天井に頭を埋めた。
天井にぶら下がる身体からは血が流れ落ちる。鳳仙の隣に控えていた遊女は堪らず悲鳴を上げる。オイラはあまりのことで声も出なかった。

「クックックッ。貴様ら、わしを査定に来たのだろう」

鳳仙は立ち上がる。大きな男だった。身体がじゃない。まるで全てを飲み込む様な男だった。
たぶん、飲み込まれたら生きていられないんだろうな…。

「ぬしらに、この夜王鳳仙を倒せると」

男達の話はよく分からなかった。春雨?正面から闘り合う?こいつら仲間じゃないのかよ?
そんな話オイラに何の関係があるんだよ?何でさっき『団長』は日輪の――母ちゃんの話をしていたんだよ?

「そいつは困るな」

『団長』は、本当は無事で。

「女や酒じゃダメなんだよ。俺はそんなものいらない」

男二人は何が楽しいのか知らないけど笑っていて。

「そんなもんじゃ俺の渇きは癒えやしないんですよ」

何か二人は闘い始めるけど。

「己と同等。それ以上の剛なる者の血をもって初めて、俺の魂は潤う」

そんなの二人でやってくれ!オイラにとって二人は赤の他人なんだ!
オイラは――。

「何者にもとらわれず強さだけを求める俺に、あんた達は勝てやしないよ」
「ぬかせェェ、小童ァァ!」
「やめろォォォ団長ォ!!」

オイラは母ちゃんに会いに来たんだよ!






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