第五章 第七話     83/115
 




「ちょっ、ちょっと!タンマ!落ち着いて下さい!」
「あはははは!よく避けるねぇ」

綱吉の顔の横を傘が素晴らしい勢いで通り過ぎる。傘が直撃した壁は豆腐の様に粉々に吹き飛ぶ。それを見た綱吉は、サーと顔の血の気が引いていくのを感じる。
当たったら、死ぬ。あっさりと、死ぬ!

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

綱吉は駆ける。このままだといけない、殺される。どうにか攻撃を止めてもらわないと。

「話し合いましょう!平和にいきましょう!人類、皆、兄弟、です!」
「それ、何の意味があるの?」
「平和の意味を問われた!?」

はい、話し合いは不可能だと結論が出ました。逃げないと死ぬことが分かります。

「嫌ぁぁぁぁぁ!」

綱吉は悲鳴を上げながら逃げる。死ぬ気丸を飲む暇もない。

どうしてこんな目に!?立ち聞きしたから!?立ち聞き=死!?何その理不尽な方程式!

綱吉は心の中でも涙ながらにツッコンでいた。彼の性質は此処までも変わらないのだ。





一方神威は少しずつ心が躍ってくるのを感じていた。

目の前にいる子供は、はっきり言って弱い。覇気を感じない。一撃当てることが出来たらおもちゃの様に吹っ飛んで壊れるのが目に浮かぶ。
だが、この子供は避けていた。一撃、二撃では偶然も考えるが、続けて幾度もだ。

面白い。面白い。面白い。

布の下で笑みが浮かぶ。予想外の収穫かな?

真の強者とは、強き肉体と強き魂を兼ね備えた者。それが神威の持論だ。
この子供は、少なくとも強き肉体は持ち合わせていない。見ればそれくらい分かる。ただの一般的な地球人だ。武術の類なども習得していないだろう。
なのに、神威の攻撃を避けている。まるで何処から攻撃が来るか分かっているかの様に。此方の動きを先読みしているかの様に。

それは綱吉の持つ超直感の力なのを、神威は知らない。しかし、感じていた。何かがあると。
それが神威の心を高ぶらせる。

「君、面白いね」

神威は口に出して言う。
口が僅かにでも弧を描くのを止められなかった。





一方、阿伏兎達は神威の攻撃に加わると何を言われるか分かった物ではないので、傍観を決め込んでいる。情報を聞き出そうと考えていた阿伏兎にとっては想定外の展開だ。まさか、この子供がこんなにすばしっこく逃げるなど。

「何も面白くありません!」

子供は屈んで神威の攻撃を避ける。
阿伏兎はそれを見ていた。そしてそれに違和感があった。神威の攻撃は、あの子供には避けられないはずの攻撃だ。
神威は本気ではないし、女子供は殺さない主義の――いつか強い子供を産むかもや、大きくなったら強くなるかもなどの戦闘狂そのものの理由だが――ために殺す気はないだろう。しかし、子供の身体能力では死ぬとまではいかないまでも、避けることは出来ないはずなのだ――攻撃を予測でも出来ない限り。
神威が感じている感覚を、阿伏兎も感じていた。隣の云業は団長が遊んでいるとしか思っていない様だが――減給してやろうかこの節穴。お前も歴戦の夜兎だろうが。
それが、阿伏兎の皺を増やしていた。

(まっ、俺には関係ない事だがな……)

あの子供に神威が負けるなどということは天地がひっくり返ってもないことだろう。心配することは何一つない。ないはずだ。
神威が飽きて、あの子供という名の情報源を殺してしまわないかという心配はあるが。そうだとしても、他の情報を探せばいい。それだけだ。
阿伏兎にとって、名も知らぬあの子供はそれだけの存在だ。

「ツナ!」
「綱吉君!」
「ツナ兄!」

本命の捜している子供が見付かれば、用はないただの子供だ。






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