第五章 第六話     82/115
 




「門は見張りがいる。この中を通ってゆくがよいわ。一日半はかかるがいずれ外に出られるはずじゃ」

そう言って銀時達に逃げる様に促すのは、金髪の髪を結い、顔に傷がある女、吉原自警団『百華』頭の月詠である。

神楽、新八、晴太達三人は百華に襲われた。クナイの嵐による攻撃は、新八達が逃げることを即決するには十分な理由となった。銀時が助けに来なかったら、そのまま百華相手に勝てる望みが薄い鬼ごっこをするところだった。

銀時の頭にクナイが刺さったり晴太の頭にクナイが刺さったりとしたが、それは月詠が百華達の目をかいくぐるための芝居だった。晴太達にとってはどうしてあの様なコントをしなければならないのだ、という思いだが。晴太達を仕留めたと月詠は言い、部下であるはずの百華達を帰らせたのだ。
そして今、その月詠は銀時達を逃がそうとしている。

どうして百華の頭である月詠が晴太達を逃がそうとしているのかを問えば、月詠は答えた。
日輪に頼まれた、と。

此処、吉原にいれば、晴太と日輪の接触を恐れる鳳仙の命により、晴太の命はない。
晴太と日輪が会うことを恐れる理由はただ一つ。日輪が吉原から逃げるかもしれないからだ。

そして月詠は語る。

『死ぬだなんだわめいて逃げ回る暇があったら、檻ん中で戦いな、自分と』

幼い頃の月詠と日輪の出逢いを。

『……殺しな。あの子をこの手に抱いた時から覚悟はできてるよ』

八年前、日輪が赤子である晴太を連れて地上に逃げた日の事を。

「わっちはぬしを死なせるわけにはいかぬ。帰れ…ぬしが死ねば日輪の今までの辛苦が水泡に帰す」

そう言って月詠は煙管を吹かす。とりつく島もない。

「そうは言うが、こっちだって生半可な気持ちで来てんじゃねぇんだ」

銀時は頭をがしがしと強めに掻きながら言う。ややこしい事になってきたと思った。まさか、此処までだとは、と。

「それに、このまま逃げるわけにゃいかねぇよ」
「そうです。綱吉君とも合流しないと」

月詠に言われるがままに付いてきてしまったが、このまま逃げるのは不味い。まだ吉原には合流できていない綱吉がいるのだ。

「少年があと一人吉原にいる情報も入っている。その子供もすぐにぬし等と同じように逃がす。心配いらぬ」
「いーや、心配だね。会ってすぐにその言葉を信じるほど、俺はお人好しじゃねぇんだよ」
「そうアル。ツナ置いて逃げられるはずないネ」

神楽も引き下がらない。頑として此処に残る気でいる。

「ツナを嘗めるんじゃないアル。今この時だって何かに巻き込まれているかもしれないネ」
「この吉原でか?心配はいらなんし。此処は曲がりなりにも鳳仙が治めている地。そこらの風俗よりも治安は――」

その言葉は最後まで紡がれなかった。



ドォォォォォォン



すぐ下の町中で大きな破壊音が響く。勿論、銀時達全員の耳に届いた。
最初に反応したのは月詠だ。

「なっ、何事じゃ!」

吉原では小さな小競り合いは兎も角、あの様な破壊音が起きるとは。何が起こっているのか月詠には分からなかった。
一瞬、銀時達は目を合わせる。

「まぁ、関わっているだろうな」
「百パー関わっていますね」
「絶対関わっているアル」
「ツナ兄……」

若干呆れているとも取れる銀時達の言葉に月詠は振り返る。

「何じゃおぬし等、この音の主が分かるのか」
「まぁ、ツナがいるだろうな」

月詠はその言葉に怪訝そうな顔をする。

「何故関わっていると?」
「てめえ、ツナのトラブル吸収率嘗めんなよ。ジャンプの主人公並みだぞ。アイツを一人にすると何かとエンカウントするんだよ」

銀時はさも当然の様に語った。

「またツナ兄何かに巻き込まれたんだ!何度巻き込まれれば気が済むんだよ!」

どうやら晴太がスナックお登勢で働いている間にも何かあったようである。

「ぐだぐだ言ってないで行くアルヨ!」
「あっ!待ってよ、神楽姉!」

神楽はいち早く走り出し、それに晴太、新八も続く。

「で?」

銀時は月詠を見ながら言う。にやにやと意地悪そうにしながら。

「コレでもこのまま帰れと?」

月詠は溜め息をついた。






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