第五章 第五話     81/115
 




初めて地球に来た。
地上は憎らしいほどに太陽の光に包まれていたが、己の師匠である男が治めるこの吉原は、地下にあって太陽の光が降り注ぐことはない。
念のために顔と腕には光を遮断する布を巻いておいたが、この街ではそれは不要のようだ。
あの男が余生を過ごす街と言うことで少しばかり期待していたが、何て事はない。詰まらない街だ。これでは街ではなく、己の隠している目的、男との闘いに期待するしかない。
師匠と呼ぶ男との闘い。それは想像するだけで心躍るモノがある。早く闘いたい。今はそれで頭がいっぱいだ。

「おい、団長。今俺の話聞いていたか?」
「ん?」

隣で歩いている阿伏兎が言う。その声には苛立ちが感じられる。

「……聞いてないな?」
「うん」
「んな笑顔で言う事じゃねぇよ、このすっとこどっこい!」

阿伏兎はそう言って怒鳴る。全く、短気だなぁ。
反対隣を歩いている云業は呆れた様に言う。

「鳳仙との会談の前に、鳳仙が狙っているって言うガキを捜して差し出すって話だよ」
「そんな面倒な事しないで、そのまま旦那に会いに行けばいいだろう?」
「政治が絡んでくると色々と面倒な事しないといけねぇんだよ。少しでも話を有利に進めるためにな」
「ふーん」

一応頷いておく。
別に政治に関心はない。そこに戦場があればそれで良い。だが、そう言おうモノなら阿伏兎の小言が返ってくるのは分かっている。
むかつく小言が返ってくるならば殺してしまえば良いのが常だが、阿伏兎がいなくなればその後が少々困る。阿伏兎は第七師団で数少ない政治が分かる、世渡り上手な男だ。雑務が出来る者を一から捜すのは面倒くさい。
鳳仙と一戦やる前に子供捜しか。そんなことやっている気分ではないのに。

「しかし、そのガキってのは何処にいるんだか」
「其処は阿伏兎が捜してよ」
「アンタも働け、このすっとこどっこい」

一応団長なのだからそれくらいやってくれても良いではないか。自分は闘いにしか興味はない。子供捜しなんぞどうしてしなければいけない。

「人捜しは得意じゃないんだよね。阿伏兎はこういう雑務よくやってんじゃん」
「アンタがまともにやらないからだろ!」
「団長は戦闘しか頭にないからな」
「別に良いだろ、云業。それでも第七師団は回っているんだから」

ああ、早く鳳仙の所に行ってしまいたい。だが、闘うのを目的としていることは彼等には内緒だから、子供は捜すしかない。
何か手っ取り早い手はないものか。

「鳳仙との約束の時間には間に合わせないとな」
「旦那は少しくらい遅れても文句言わないと思うけどね」
「そう言う問題じゃねぇんだよ」

さて、此処で気になることが一つ。自分達の会話を立ち聞きしている者がいる。
最初は吉原の自警団だという『百華』なのかとも思ったが、気配は消せていないし、自分達が立ち聞きに気付いていると言うことも気付いていないようだ。つまり、相手は全くの素人。
吉原の遊女が物珍しい自分達に興味でも持ったのだろうか。だが、自分があんな風に隠れているのに気付いていないと思われているとは、嘗められたモノだ。

「……で、だ」

もっとも、気付いているのは自分だけではなく二人もだが。もしこれに気付いていなかったら減俸して雑用係にしてやったのに。

「さっきから、其処で盗み聞きしてんのは誰だ?」

阿伏兎の言葉と同時に跳び上がる。
聞き耳を立てていた犯人は逃げようとしていた様だが、もう遅い。犯人の逃げ道にそのまま着地する。
さて、どんな遊女が盗み聞きをしていたかと思った……しかし。

「あれ?子供?」

予想外にも犯人は子供だった。逆立つ茶髪に、同色の瞳。歳は十二、三といったところだろうか。
色街に出入りする子供がそういるとは思わない。もしかしてこの子供が捜している者だろうか。

「もしかして、コレが捜している子?阿伏兎?」
「あー、たぶん違うぜ、団長。捜しているガキは八つのはずだ。ただ……」

子供の後ろに立った阿伏兎がにやりと笑う。人が悪そうな笑みが似合う奴だな、と思った。

「ガキ繋がりで、何か知ってっかもしれないがな」

子供がぴくりと反応したのが分かった。






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