第一章 第五話     6/115
 


「・・・・・はぁぁぁぁぁぁ」

真選組副長土方十四郎はパトカーの中で深いため息を吐いた。
それを聞いた真選組局長の近藤勲は隣で苦笑する。

「トシ。幸せが逃げるぞ」
「もう全速力で逃げ去った後だから問題ねぇ」

土方はそう言って煙草に火を点けようとする。しかし、オイルがないようで火は点かない。本当に逃げ去ったようだ。

「まぁ、そういうな。とっつぁんの言ったとおり、ようは人捜しだ」
「だが近藤さん。相手は『異世界』のやつだぞ。話しが通じるかもわからねぇんだ」

土方は点けなかった煙草を仕舞いながら三十分前の松平との会談を思い出した。





「栗子がよぉ、今度の三連休は学校の友達とキャンプに行くって言ってんだよ。栗子もいい歳だ。友達だけでお泊まりをしたいという気持ちもわかる。だがよぉ、その中に男がいるのなら話しは別だぁ。男は狼だ。部屋が別だとしても油断なんざできねぇ。おじさんは大反対したさ。危険だってな。だが栗子は話しを聞かねぇ。娘の父親に対する長い長い反抗期だ。父親としての宿命の一つ。それを否定する気はねぇ。だが悲しくない訳がねぇ。あんなにかわいがった娘から蔑んだ目で見られる気持ちは・・・」

近藤と土方の両名が突然松平に呼ばれた。仕事も部下に任せ、急いではせ参じてから、松平は永延と娘の話をしている。
そろそろ土方がキレそうというとき。

「一週間前、幕府所有の蔵に盗人が入った」

松平は突然本題に入った。

「盗人は蔵のあるモノを持って逃走。まだ確保できていない」

近藤と土方はその言葉に目を見開いた。
腐っていても幕府だ。それの所有する蔵に侵入しただけでなく、まだ逃げているということはその盗人はかなりの手練れを意味する。

「とっつぁん、それじゃ、俺らの仕事はその盗人の確保か?」
「いや、それは俺たちがやる」

松平はそう言ってたばこの煙を吐いた。

「お前達には人捜しをしてもらう」
「人?一体誰だ?」

土方は怪訝そうな顔をした。
この話をした後の人捜しだ。事件に関係のある人物だろう。その盗まれたモノの所有者やその制作者、または盗人の関係者か・・・。
土方はそう考えたが、松平の発言で思考が止まった。

「盗まれたモノが『異世界転送装置』でよぉ。それで転送されてこっちに来た人物を捜してほしいのよぉ、おじさんは」

土方は眉間をもんだ。・・・疲れているのだろうか。

「・・・とっつぁん。すまない。よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」
「異世界から来た人間を捜せ」

今度は近藤も眉間をもんだ。

「・・・とっつぁん。すまないもう一度ぉぉぉぉぉぉ!!?」

松平は近藤に向けて発砲した。近藤は飛び上がって辛うじてその弾丸をかわす。

「おじさん何度も同じ事言うの嫌い何だよ。おじさん何かおかしな事言った?異世界転送装置だ。異世界のモノを転送する装置だ。転送されたモノを捜す。何もおかしくねぇだろうが。おじさん何か間違っているか?」
「異世界なんてあるわけないだろうが!!」

土方は叫んだ。
この親ばかの上司からは天人への献上品探しに始まり、将軍のペット探しなどふざけているとしか思えない仕事を多々押しつけられたことがあるが、これは度が超えている。
とうとうぼけ始めたか。

「とっつぁん。落ち着け。深呼吸をしろ。ぼけるのは待ってくれ」

近藤も同じ事を思ったのだろう。発砲に注意をしているのか、身構えながら言う。

「異世界なんて与太話を信じるなんてとっつぁんらしく「どうしてそういえる」・・・え?」

近藤の言葉を松平が遮った。

「近藤、トシ。おじさんがまだガキだったとき、天人なんていう宇宙人が本当にいるなんて誰も思っちゃいなかった。いないのが常識だった。だが今はどうだ?いるのが常識だ。人の常識なんてそんなもんさ。変わっていくんだよ」

松平は拳銃を懐にしまいながら言い、煙草を灰皿に押しつけた。

「それにこの装置は十年以上も前に一度使われた。困ったことに本物だ」
「・・・まじかよ」

近藤も土方も開いた口がふさがらない。あの松平がここまで言うのだ。嘘ではないらしい。

「えぇと、その・・・異世界から来るだろう人物を捜すのはわかった。見つけ次第とっつぁんに知らせればいいんだな?」
「いや、俺はこれから出張だ。一ヶ月は江戸にいない」
「え?んじゃ、ほかの幕府のやつに知らせればいいのか?」
「いいや、ほかのやつには知らせるな」

松平はそう言うと目を鋭くさせて二人を見る。

「これは命令だ。絶対その人物を見つけてもほかの幕臣には知られるな。あくまでも内密に保護という形をとれ」
「・・・理由は?」
「お前達が知る必要はない」
「だが・・・」
「同じ事を言わせんな」

土方が問うが、松平はとりつく島もない。土方は松平を睨んだままでいたが、睨まれている本人は物ともしない。

「トシ、やめろ。・・・とっつぁん。そいつの手がかりはあるのか?歳とか、容姿とか」
「まったくわからん」
「・・・は?」

二人は言われた意味を理解するのにまた一時停止した。
やってくる人物の情報がない?
意味を理解すると土方は額に青筋を浮かべながら怒りを抑えた声で言った。

「あんたは俺らをおちょくってんのか」
「トシ、話しは最後まで聞け」

松平はまた新しい煙草に火を点けた。




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