第五章 第三話 79/115
吉原の茶屋。其処で男二人が談笑をしていた。
男二人の片割れは、晴太が日輪に会うために金を渡していた者だ。しかし、男はその金をその日の内に酒に変えてしまったという。
もう片方の男も、晴太には黙っていてやるから自分も今度誘えと言う始末だ。そして彼等は笑う。ガハハハハと楽しそうに。
それは、面白くなかった。
「アハッ」
ゆらりと男達は倒れ伏す。男達が座っていた長椅子に腰掛けているのは銀時だ。
「んなこったろうとは思ってたぜ」
「酷い…晴太君あんなに頑張っていたのに…」
銀時の隣には綱吉もいた。
綱吉は男達の言い草に怒りを覚えていた。子供である晴太の行いを、その様な形で裏切るとは。許せなかった。少なくとも、彼等の懐を探る銀時を止めないくらいには怒っていた。
「ネーちゃん、幾らだ」
「お代は結構です」
茶屋の店員である女性は言った。綱吉は彼女に振り返る。
「スッキリさせてもらえたので」
「晴太の知り合いか」
「ここでは有名でしたので。子供の来る様な所ではないのでね」
女性の言い様に、綱吉も胸が少し軽くなった気がした。あの男達の様な者だけではないのだと思った。
「日輪と晴太を会わせようと考えておいでで?」
「うるせーガキにいつまでも住みつかれちゃ迷惑なんでな。身寄りでもいねーかと捜しに来ただけだ」
男の財布の中身を見ながらそんなことを言う銀時に、綱吉は小さく笑った。
「銀さん。ちゃんと分かっていますよ」
「何の事だよ」
綱吉はそれ以上言わなかった。銀時はじとりと綱吉を見るが、綱吉が笑顔のままなのを見て、不機嫌そうにそっぽを向いた。
「金のない奴ァ、どうやって日輪に会えばいい」
しかし、その言葉に帰ってきたのは、女性の否定の言葉だった。
日輪は吉原で最高位の太夫。よほどの上客でなければ会えない。諦めた方が良い、と。
上の常識は通じない。吉原のルールに従わなければ、二度と地上には戻れない。
それは嘘偽りなどない、女性の本心からの言葉だったのだろう。
しかし、銀時だってそれで諦める男ではない。
「ワリーな」
女性の気配が変わった。
「俺ァ上でも下でも、てめーのルールで生きてんだ」
その瞬間、女性から背筋が凍る気配が溢れた。そう――殺気が。
「!!――銀さん!」
綱吉は叫んだ。
女性はその叫びとほぼ同時に飛び上がり、忍ばせていたクナイの山を銀時に浴びせる。
しかし、銀時もただ者ではない。それを跳んで避け、逆さになりながら女性に下からの一撃を食らわす。
女性は倒れたが、周りが騒がしくなる。
「くせ者!」
「くせ者!」
銀時達は吉原に敵と認識された様だ。
「チッ。めんどくせーことになってきやがった!!」
「銀さん!晴太君達と合流しましょう!」
その場から駆け足で離れる銀時と綱吉。
闘いが幕を開けた。
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