第五章 第一話     77/115
 




「ダーッハッハッハッ」

お登勢とキャサリンの笑い声が店内に響き渡る。そこまで笑うのはいくら何でも可哀想だとも思ったが、綱吉は何も言わなかった。

銀時が連れてきた少年の名は晴太。彼は吉原で女を買うのだという。

「笑い事じゃないですよ。少年誌ですよ、少年誌。そんなこと許されると思ってるんですか」

新八が呆れた様に言う。その発言が大丈夫なのだろうか。

「細かい事言うなヨ新八。ガキに先こされて焦ってるアルか」

神楽が口を挟むが、からかっているのが丸分かりだ――いや、彼女なら本気かもしれないが。新八も真に受けて噛んでいるし。

「そーいうんじゃなくてこんな子供がね、色街出入りしてかつ女性を買おうなんて…」
「ガキじゃない晴太だ童貞(ガキ)」
「てめっ今何つったァァァ!!何と書いてガキって読んだァァァ!!」

自分よりも一回りも小さい子供に言われてしまうとは……新八は大層焦っているらしく、ゴッドハンドやら加藤の鷹やらと言っている。

「データに書き加えておきます。三十歳まで童貞を「いるかんな情報」」

たまが余計な情報を記憶しようとしていたのをお登勢が叩いて止めている。
お登勢は煙草を銜え、ライターで慣れた手付きで火を点ける。

「……で」

お登勢は紫煙を吐きながら店の隅に目をやった。

「……彼奴等は何やってんだい」

お登勢の目線の先には二人の男がいた。
一人は白髪の天然パーマの青年で、大人しく正座をしている。もう一人は茶髪の少年で、青年の前に仁王立ちで立ち塞がる様に佇んでいる。

「銀さん」
「……はい」
「百歩譲って、財布を盗られてしまったのは不問とします。家計は火の車でそんな事をされたらマジで危ないんですが、仕方がありません。銀さんに罪はないですから」

二人とは言うまでもなく銀時と綱吉である。二人の間にはいつもの様な和やかな空気ではなく、張りつめた緊張感が漂う。

「ですがね、銀さん。子供からスるとは何事ですか」
「いや、でも…スられたから…」
「やられたらやり返せじゃ世界は平和になりません」
「世界!?そんな壮大な話だったの!?」

新八はいつもの事と言う様に彼等を一瞥しただけで顔を正面に戻す。

「ああ、あれは良いんです。綱吉君が銀さん叱っているだけですから」
「いつものことアルナ」
「……そうかい」

お登勢は納得したのだろう。彼女も視線を外す。

「最近元気ないようだったから心配だったけど、大丈夫そうだね」
「あっ、お登勢さんも気付いてました?」
「ツナは分かりやすいアル。あの松平とか言う奴に会ってから変だったネ」
「何かあったか訊いても教えてくれないし、心配だったよ」
「……面白くないアルナ」
「神楽ちゃん?」

神楽はふて腐れた様に頬を膨らます。

「ツナが私達に隠し事するなんて…面白くないアル」
「あの子も子供とは言え男だからね。見え張って隠し事をする様になるもんなのさ、男ってのは」
「女だって隠し事するアル」

新八達がそんなことを言っていれば、説教が終了した銀時と綱吉が席に戻ってきた。

「うう…酷い目に遭った…」
「銀さん。子供には優しく、ですよ」

随分と疲れている銀時は机に突っ伏して座っている。綱吉は一仕事したとばかりに茶を啜った。

「しかし、ガキの分際で女に興味もつなんざたいしたもんだよ。英雄色を好むってね」

銀時は行儀悪く頬杖を付きながら言う。

「しかも女買うための金を集めようとスリをやってたとは末恐ろしいガキだぜ」

晴太はその言葉に黙り込んでしまった。

「みなし子のオイラが金を手に入れる方法っつったらスリしかなかったんだよ…」

銀時は言う。

「正直に話せ」

晴太は語った。
吉原の花魁が、母親なのかもしれない。会いたいのだ、と。話がしたいのだ、と。

そして、そんな少年にお登勢は言う。

「働いてきな。ここで」



晴太は涙を流しながらも礼を口にする。



万事屋がまた騒がしくなった。






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