第五章 序章     76/115
 




その男と対峙した時、雨が降っていた。
雨は瓦礫を濡らし、厚き雲は我らが天敵である日輪をその身の向こうに隠し、光を覆っている。

『――――――』

男は口を開いた。話している相手は目の前にいる私だ。周りには他に何者もいない。私と男だけだ。だから、男は他の誰でもない、私に話し掛けているのだ。

『お前の渇きは潤わない』

男の眼は真っ直ぐと私を射抜く。私は拳を奮うことなく、それを正面から受け止めていた。

『今のお前では、渇きが癒えることはない』

男の声は耳障りだった。しかし、まるで呪術に縫い止められたかの様に身体は動かない。
黙れと言葉を発すれば、男は黙るかもしれない。それか、いつもの私の様に、目の前にいるこの男を叩きのめせば、彼は物言わぬ屍になるのだろう。
しかし、身体は動かない。

『この世界にも、お前の様な男がいるのだな』

男は変わらず言葉を発し続ける。

『いくら闘おうとも。いくら女を集めようとも』

男は私を眼で射抜く。この夜王を射抜く。

『お前の渇きは癒えない』

金髪の男は言った。



二十年も前の記憶だ。






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