第四章 第二十五話 74/115
「……」
二人の間に暫しの沈黙が落ちる。聞こえるのは風の音だけ。まだ人々は目覚めてはおらず、この場にいるのは二人だけだ。
「すみません…こんな事言ってもこま…」
「てめえは」
綱吉の言葉を、高杉は遮った。
「どんな答えを望んでいる?」
「……え?」
高杉は数歩前に歩き、綱吉に背を向けた。
「てめえの詳しい事情は知らねぇ。だが、そんな俺が何か言ったら、お前の答えは変わるのか?」
「……」
「その変わった答えで、てめえは満足か?」
綱吉は目を瞑った。
暫し口籠もった後、綱吉はそれでもはっきりと言った。
「……いえ」
そうだ。
たとえ高杉が何を言っても状況は何も変わらず、この世界にとって綱吉が異分子のままだ。
それが悲しく、辛く。綱吉は、誰かにその理由を、答えを求めてしまった。
逃げてしまった。
「……いえ」
答えは、綱吉が見付けなければならないのに。
「甘ったれるな」
「……はい」
綱吉は下を向いてしまった。酷く自分が恥ずかしかった。
(駄目だなぁ…)
泣きたくなってしまった。しかし、泣くまいと目を瞑る。
頭にポンッと手を置かれた。
「見付けろ。自力で」
その手が優しくて。
顔を上げることが出来なくて。
「……はい」
少しだけ、綱吉は泣いた。
鬼兵隊が所有する船の自室に、高杉は戻っていた。
外が見える戸に腰掛け、煙管を吸う。
「……」
横に置いてあるのは、すでに開かれている封筒。高杉晋助と書いてある宛先。少し右上がりの懐かしい字。
ジョットからの手紙。
「……」
右手には煙管。そして、左手には先ほど読み終わった手紙。
「……ちっ」
高杉は不機嫌そうに舌打ちを一つし、空を見上げる。
「……時間制限なんて…聞いてねぇぞ…ジョット…」
頭に過ぎるのは言葉を残した金髪か、泣いていた茶髪か。
分かるのは、隻眼のみである。
受け入れるしかない事実。
彼等はこの世界の者ではない。
時間は限られる。
別れの時は決して遠くはなく。
どれほどの時間が残されているのかは分からなく。
帰る手立ては――――
「異世界転送装置……か」
誰かが呟くその手立ての名。
時は止まることはなく。
今日も日は沈む。
明日が来る。
陽がない国にも、明日は来る。
渇くのだ――
一人の男が呟いた。
第四章 完
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