第四章 第二十四話 73/115
早朝。そこは一軒の花屋の前。ただの、何処にでもある様な、変哲のないただの花屋だ。早朝なのに開いていると言うこともなく、シャッターは閉まっている。
だが、高杉晋助には花屋と言う事以外に他の意味を持っていた。
彼の者との待ち合わせ場所だ。
「おはようございます」
そして、今日も待ち人はその花屋に来た。
「よう」
高杉は振り返る。そこには一人の少年――沢田綱吉が立っていた。
「目が赤いな…どうした。泣いたか?」
「うっ…いきなり痛い所を付いてきますね…」
綱吉は力無く笑う。
聞かれたくないのだろう事を察し、高杉はその事に対してそれ以上は言わず、煙管の火を点けた。
綱吉は高杉の隣に立つ。
「宿題はどうですか?」
「……」
「考えて来て下さいよ。俺はちゃんと思い出して来たんですから」
「うるせえ。ジョットとの関係なんざ、考えたこともなかったんだよ」
「まぁ、そうですねぇ。あの人と俺の関係だって、ただの先祖と子孫だけではないくらいですから」
先祖と祖先。
ボンゴレT世とボンゴレ]世候補。
ボンゴレT世と後継者。
関係はそれだけではない。
「まぁ、今日はその事を話に来たわけではないんですが」
「あ?」
「実は昨日、俺はびっくり体験をしまして」
「良かったな」
「それは良いことだけじゃなかったんですが…」
綱吉は懐を探った。
「実は、過去からの伝言を預かっています」
一通の手紙を、綱吉は差し出した。
黄ばんだ、古い、一通の手紙。
「プリーモからです」
高杉は取り乱さなかった。何も言わず、隻眼の瞳を少し細めただけ。表情はそれしか変わらなかった。
「貴方宛です。受け取らないなんて事、しないですよね?」
「もしいらねぇって言ったらどうする?」
「土下座してでも受け取って貰います」
高杉は薄く笑って綱吉を見る。彼の目は本気だった。
過去の来訪者と現在の来訪者。
言葉を残した者と、言葉を届ける者。
綱吉は、言葉を届けたかった。
「……」
高杉は黙ってそれを受け取り、懐に入れた。
「…驚かないんですね。手紙があったことを知っても」
「驚いてるさ、十分。だが……」
「だが?」
「……いや、何でもねぇ」
高杉は煙管の煙を吐く。
「ねぇ、晋助さん」
「何だ」
二人はそれぞれ前を向いていて、目を合わせない。
「俺と貴方の関係って、何なんでしょう」
「…どうした、突然」
「銀さんと俺の関係は?神楽ちゃんとは?新八君とは?お妙さん、真選組の人、お登勢さん達とは?」
「……」
「俺は、ただ事故の様な物でこの世界に来ただけです」
「…そうだな」
「偶然の様な出会いです。奇跡の様な、出会いです」
綱吉は高杉を見なかった。
「俺、みんながいるこの世界が好きです」
高杉も、綱吉を見なかった。
「元の世界には、戻りたいです。元の世界にも大切な人はたくさんいますから。だけど……」
「どうして、世界に…受け入れて貰えないんですか……!」
綱吉はしゃがみ込んで頭を抱えた。
どうしたらいいのか分からなかった。
どれほど時間が残されている?どれほどこの世界にいることが出来る?どれほど……。
あとどれほど、みんなといることが出来る?
分からなかった。悲しかった。ただ、誰かに聞いて欲しかった。
綱吉の本音を。それは、弱音だった。
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