第一章 第四話     5/115
 

「つまり・・・俺はその装置でこの世界に?」
「おそらく。帰る方法は、その装置を取り戻さないと何とも言えん」
「その・・・盗った天人というのは、今、何処に?」
「我々も捜査中だ。幕府も動いているだろう」
「幕府って、徳川幕府のことですよね?そんな大事だなんて・・・」
「綱吉君。転送されたとき、誰かと一緒だったか?」
「友達と。二人。一緒に学校・・・寺子屋からの帰りでした」
「少なくとも、その二人はこちらの世界にいると考えた方が良い。綱吉君がこちらの世界に来たのだ。二人が来ていないとは考えにくい」
「そんな・・・」
「綱吉!!元気だすアル!どうにかなるネ!」

神楽は綱吉を励まそうとするが、綱吉の顔色は悪いままだ。

(二人とも・・・いったいどこに・・・)

獄寺と山本。見知らぬ世界にいきなり来たのだ。特に獄寺はなにかと問題を起こす傾向がある。無事だといいのだが・・・。

「銀時」
「んだよ、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ。お前は綱吉君を匿え」
「ん〜、まあ、仕方ねぇな」
「え?匿えって・・・何でですか?」

新八はいきなりの話の展開についていけない。綱吉を万事屋に泊めるのはわかる。事情を知ってしまったのだ。知らぬ存ぜぬはできない。しかし、どうして匿うという表現になるのだ?

「綱吉君はおそらく天人から狙われる。本人にその意志がなくとも、『異世界』から転送したことの成果が綱吉君という形だ。あいつらはそれを欲するだろう。捕まったら何をされるかわからん」
「えっ、俺、何も出来ませんよ?」
「あちらさんはそんなのおかまいねぇんだよ。転送した。何か来た。でも何の力もないじゃぁ、話にならない。意地でも何かないかって調べるだろうな」

銀時は淡々と言う。思い浮かんだのは一緒に転送された可能性のある二人の顔だ。

「それじゃぁ、獄寺君と山本も・・・」
「早く見つけるに越したことはない。俺も全力をもって探す」

桂は立ち上がった。

「最初から銀時に頼もうと思っていたのは転送された何かの『保護』だ。丁度良い。頼んだぞ」
「お前の思い通りかよ」

銀時はジトリと桂を睨んだが、それ以上は何も言わない。綱吉を預かることは承諾したのだ。

「綱吉君。心配をするなとは言えない状況だが、悪い方にばかり考えてはいけない。そのような姿勢では、江戸の明日を見ることは出来んぞ。前を向くことを忘れるな」

桂は綱吉を安心させるように優しげに笑い、そのまま店を出て行った。

銀時は桂が出て行くのを見届け、次に綱吉を見た。
綱吉はまだ暗い顔をしている。自分は見知らぬ場所にいて、友人の二人は行方不明、安否もわからないのだ。不安にもなるだろう。

「まぁ、あれだ」

がしがしと自分の頭をかいて銀時は話しだす。

「ひとまず、飯食うぞ。腹が減っていちゃ、考えもいい方向になんか行かねぇよ。神楽を見ろ」

神楽は八杯目のおかわりを頼んでいた。

「さっきまで不機嫌だったのが、今じゃ上機嫌に飯食ってんだろ。人間、しっかりと食べることが重要って事だ。いい思考もいい仕事も、まずは飯を食う事から始まる。朝ご飯というモノがあるのもこのためだ。飯を食った奴が、良い結果を出す。飯を残すような奴はその時から敗北への道を歩む」

銀時は真剣な顔で語る。その顔にただならぬ気配を感じ、綱吉も背筋を伸ばし、神妙に頷く。
しかし、新八は嫌な予感がしていた。相手はあの銀時だ。そして随分と久しぶりに入った報酬に加えて、ここはファミレス・・・恐らく・・・。

「というわけで・・・・店員さぁぁぁぁぁん!パフェ五つ追加お願いしまぁぁぁぁぁぁす!!」
「飯を食えぇぇぇぇぇぇ!!」

銀時は大声で注文をするが、それ以上の声で新八はつっこんだ。

「いい話だったのに!途中までいい話だったのに!!飯を頼まずにデザートを頼むな!!」
「うるせぇ!こちとら糖分を五日も摂ってねぇんだよ!銀さんの生命力!やっと入った金だ!たらふく食うぞ!」
「だからお前は糖尿病予備軍なんだ!」

銀時と新八は激しい言い合いを始めてしまった。しかし、そこに悪意は感じられない。まるで漫才のように息が合った掛け合い。
綱吉はそれを見て思わず笑ってしまった。

「あっ・・・」
「綱吉君・・・」
「す、すみません。つい・・・楽しそうで・・・」
「いいんだよ、笑って。辛気くさい顔よりも、そっちのほうがずっといい。食え。笑え。話しはそれからだ」

銀時はそう言って運ばれてきたパフェを綱吉に差し出した。

この人達は自分を心配してくれていたのだ。まだ会ったばかりの自分に向けられた優しさが綱吉には嬉しかった。

「ありがとうございます。・・・いただきます」



神楽は十杯目のおかわりを頼んでいた。







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