第四章 第二十二話     71/115
 




銀時は動揺していた。
渡された手紙をじっと見る。坂田銀時と、宛先が書いてある。間違いなく自分宛てだ。
待て。落ち着け銀時永遠の少年中学二年生の夏。
これが本当にジョットからの手紙かどうか分からないではないか。
ジョットの名を騙った、偽物かもしれない。綱吉の封筒の中に入っていたからと言って、油断は出来ない。

その銀時宛の手紙は、薄かった。中に入っていても二、三枚の短い手紙だろう。それが彼らしかった。
その封を丁寧に、ゆっくりと切る。らしくなく、緊張していた。

開く。読む。



『銀時へ』



綺麗な字だった。少し右上がりで、それでも読みやすい字。懐かしい。
ジョットは日本語を話すことが出来ても、書くことは得意というほどではなかった。だから、よく暇な時に松陽に字を習っていた。
その時の字と、同じ字。
本当に、ジョットからかもしれないと思った。



『これをお前が読んでいる時、俺はもう死んでいるだろう』



「……ジョット…」

もう会えないのだ。実感した。実感し、少し、悲しくなった。



『とかなんとか書いてみるのが「お約束」と言う奴だろう。一度やってみたかった。書いている方は少々複雑だな。もうやらん』



「………………」



訂正。



「悲しくなんぞなるかぁぁぁぁぁ!!」

確信した。これは絶対にジョットからの手紙だ。
なんという奴だ。手紙だけでこれほど本人だと確信出来たのは辰馬以来だ。手紙を破きたくなったのも辰馬以来だ。
だが、破く前に最後まで読まなければ。綱吉が元の世界に帰る手掛かりがあるやもしれない。あるのに破ったら大変だ。

「ったく…」

しかし、不覚にも笑みを浮かべている自分に気が付く。ジョットらしい手紙だと思った。
続きに目を通す。その時にも笑みは消えない。



『まぁ、お前のことだ。これが本当に俺からの手紙か疑うだろうから、最初に工夫を施しておいた。以外と気を遣っているのだぞ?』



銀時の考えなど、ジョットにはお見通しらしい。そして気を遣わせたという。だが、謝りはしない。絶対謝ってたまるか。



『この手紙を読んでいるとき、お前は大きくなっているのだろう。俺の後継者がそれを見て、俺が見られないことは非常に残念だが、致し方ない。此処で駄々を捏ねていてもどうしようもならないし、いい大人が駄々を捏ねるのは格好悪いからな』



後継者とは綱吉のことだろう。彼とジョットは似ているところがあるので、すぐに分かった。
大切に、続きを読む。



『俺がこの世界に来ることはもう二度とないだろう。摂理、理、何でも良いが、そう言う物だ。俺が生きてお前と会うことは、二度とない』



はっきりと言われて、この場合は書かれてかもしれないが、断言されてしまった。
それは、心に強く響く物があった。



『お前は、俺にもう二度と会えないことが悲しいか?』



答えるのは、少々癪だった。



『俺は、残念だよ。とてもな』



銀時の想いなど関係なしに、彼は言葉を残す。



『でも、二度と会えなくとも。悲しくとも、悲しくなくとも。残念でも、残念でなくとも』



彼は、言葉を残す。



『俺達が出会ったことは変わらない』



銀時は目を瞑る。ジョットと過ごした日々が、目の裏に思い出されていく。
自分と彼は、確かに出会っていた。関わっていた。



『違う世界でも。交わらない時間軸の中を生きていても。俺達は、同じ時を僅かでも過ごした。それは変わらない』



『忘れないでくれ、俺達の《縁》を。大切にしてくれ、自分の《縁》を』



『思い出させてやれ、《縁》を忘れている者がいたら』



『俺が残したいのは、それだけだ。お前はもう分かっているだろう?』



銀時は、目を細めた。
本当に、彼らしい手紙だ。



『俺の後継者を頼んだ。息災で過ごせ、銀時』



『元気でな』



手紙は、それで終わっていた。

銀時がどのような表情をしているのか、見ている者は誰もいない。






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