第四章 第十九話     68/115
 


「ぷはぁ…」

部屋に来た松平は煙草を吹かして一息ついている。
先ほどまで「果たす!」と言っていた獄寺は黙ってじっとしている。松平は徒者ではない雰囲気を醸し出しているので、それに飲まれたのかもしれない。

「……」

綱吉は、何を言ったらいいのか計りかねていた。予想外にも感じた既視感。それから導き出された答えは一つだ。そこから訊いていくべきなのだろうか?
しかし、男のオーラに綱吉も飲まれ気味だ。積み重ねてきた年月を感じさせる、堂々とした雰囲気。彼こそが警視庁長官だと言われたら、納得できるモノがある。

「あの…」
「二十年前になるか…」

綱吉がようやく口を開こうとしたとき、松平がそれを遮った。
吸っていた煙草の火を消し、腕を組む。サングラス越しにでも分かる。彼は、そのサングラスの奥から見ていた。
綱吉達を、ではない。彼等から見える、過去の者を。

「俺の所に、最初に来たのは赤毛の奴だった」

松平は話し出す。過去にあった物語を。

「そいつは、顔に刺青があってな。普通に会ったら、何処かのヤクザだとでも思っただろう。だが、俺はそうは思わなかった。何故だか分かるか?」
「いえ……」
「そいつは、前触れもなく落ちてきたんだよ。空中にぱっと現れて、急にな」

松平は、懐かしそうに言った。

「驚いたぜ、その時は。なんせ、天人なんてものが来てから殆ど時間が経ってなかったからな。彼奴等からの攻撃かと思った。まぁ、全く違ったがな」

松平は、当時のことを思い出していた。

「『異世界転送装置』のことは天人から聞いた。信じられないような話だったが、まぁ、彼奴等の技術のことだ。驚かないさ。俺は、その赤毛のことを天人に言わなかった」

ちょっとした仕返しさ。何のかは訊くなよ。
松平はそう言って笑う。意地が悪そうな、ガキ大将の様な笑みだった。

「んで、そいつは他にも仲間が来ている可能性があるってんで、捜したよ」

それは、綱吉達と同じ行動だった。
山本や獄寺と、はぐれてしまった綱吉。それをそれぞれで捜索する自分達。自分達は、その守護者と同じ事をしていたのだ。

「だが、なかなか仲間は見付からなかった」

綱吉達は食い入る様に話を聞いていた。特に獄寺は真剣に聞いている様だった。
赤毛に顔に刺青という特徴は、初代嵐の守護者の物に一致する。同じ嵐の守護者として感じるものがあるのだろう。

「そしたら、そいつはやり方を変えてな。自分で捜すよりも、自分の居場所を知らせようとした」

異世界の者としての彼等の行動は初めて聞く。興味深いものだ。

「詳しい説明は省くが、まぁ、簡単に言えば、自分の特徴を広めてな。その情報を聞いたら、相手から会いに来るって寸法よ」

松平は新しい煙草を懐から出して、火を点けた。その動作は土方よりも様になっていた。

「暫くしたら、本当に仲間が会いに来たよ」

外から鳥の囀りが聞こえる。屯所内がやけに静かに聞こえた。そう思うほどに、松平の言葉が大きく聞こえた。

「『G』に会いに来た奴は、『朝利雨月』と…」

松平は綱吉を見た。

「『ジョット』だった」



少しずつ、パズルのピースが填っていく。






前へ 次へ

戻る

 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -