第四章 第十八話     67/115
 




『んー…良い酒だな』

『当たり前よ。この俺が安酒なんぞ飲むか』

『確かに。お前はドンペリが好きそうな人種だな』

『おうよ。キャバクラの姉ちゃんも喜ぶからな。だが、月見酒にはやっぱり上等の日本酒だろ』

『俺はワインも好きだが…お前と月見酒を飲むのは、日本酒と言う感じはするな』

『お前もいける口だな。ほれ、もっと飲め』

『頂こう』

『しかし、アイツが捜していたボスって言うのがお前みたいな奴とはな。ボスってからには、もっと無駄に偉そうな奴かと思ったぜ』

『ふふ、仮に無駄に偉そうな者に、アイツが付いていくとは思えないが』

『それもそうだ』



満月の元、彼等は語り合う。





真選組屯所のとある一室。客間用の部屋に綱吉、獄寺、山本の三人はいた。
三人の間に、普段のような楽しげな空気は流れていない。三人とも、いくらか緊張していた。

「…遅い、ね」
「っち。ふざけやがって…」
「まぁまぁ、落ち着けって。まだ十分過ぎただけじゃねぇか」

三人は、この部屋である人物が来るのを待っていた。
その人物は、警視庁長官、松平片栗粉。
ボンゴレを、少なからず知る者。

『異世界転送装置』で此方の世界に来て、一ヶ月と少し経った。
気の良い方々と会え、仲間とも合流も出来た。江戸の街にも少しずつ慣れてきた。
しかし、帰るための手立ては一向に分からない。これは綱吉達の悩みの種だった。
この世界が嫌なわけではないが、やはり彼方の世界が綱吉達の世界なのだ。帰るための努力をしなければ。しかし、どうすればいいのかは分からないまま、一ヶ月が過ぎ去った。

しかし、何もかも分からなかったと言う事はない。初めて知った事実もある。
過去、ボンゴレプリーモ、ジョットがこの世界に来ていたことが判明してから、希望が持てている。
ボンゴレの初代が日本に渡ったと言う話は聞いたことがある。行方不明だとは聞いていない。つまり、帰る手段はあるはずなのだ。
もっとも、この事実に気付いたのは獄寺だが。
彼は、プリーモがこの世界に来ていたと話をすると、何故だか少し喜んでいた。「プリーモが来ていたって事は、他の守護者も…」と呟いていたが、よくは分からない。プリーモの守護者で、気になる者でもいるのだろうか。

ともあれ、手掛かりがない事はない。最大の手掛かりが、異世界のことである『ボンゴレ』を知っていた松平片栗粉だ。彼なら、何か知っているかもしれない。
勿論、知っているという確証はない。しかし、今はそれに縋るしかないのが現状だ。だから待っているのだが…。

「おい…もう二十分経ったぞ…」
「んー…土方さんには此処で待ってろって言われたけど…何かあったのか?」
「十代目を待たせるなんざ…その松平って奴果たす!」
「止めて獄寺君!」

獄寺の短気が爆発しそうだ。このままでは口だけではなく、本当に実行に移しそうで困る。
綱吉が続けて何かを言おうとした時。



がらっ



部屋の扉が開いた。
その向こうに立っていたのは、白髪混じりの髪をオールバックにセットし、サングラスを付けて、煙草を堂々と吹かしている男だった。



綱吉は、その男を見詰めた。男を見て、感じたことは既視感だった。
高杉に初めて会ったときと、同じ感覚。



自分は、松平片栗粉を知っていると感じた。






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