第四章 第十五話     63/115
 




『銀時?…寝たか。……もう出てきてもいいぞ』

『…銀時、気付いていたか?』

『いいや、全く。二人とも、見舞いに来たのなら堂々としてればいいのに』

『高杉がごねてしまい。全く、この子は恥ずかしがらずに顔を出せばいいのにもう』

『黙れヅラ。急にお母さん口調になるな』

『お前等は見ていると本当に面白いなぁ』

『何だとこの野郎!』

『高杉。病人の部屋だぞ』

『そうだぞ、晋助。銀時が起きてしまうぞ』

『てめえ等…覚えとけよ…』

『『忘れた』』

『……もういい。いいか、俺が来たことは銀時に言うなよ。絶対言うなよ』

『はいはい』

『言うなよ!約束だぞ!』

『分かった、分かった。見舞いの品は何だ?林檎か?』

『銀時、食べられそうですか?』

『大丈夫だろう。松陽が帰ってきたら、切るなり、摺り下ろすなりしてやるといい』

『はい。そうします』

『俺は水を換えてくる。銀時を頼めるか?』

『え、おい。銀時が起きたらこっそり来た意味が…』

『答えは聞いていない』

『この野郎!最初からそのつもりだったな!』

『高杉。だから病人の近くだって』

『うっ…』

『あははは』

男は桶を持って出て行く。一人、廊下を歩く。



『…お前達には、時間がある。それをずっと見られないのは…残念だよ』

男は、自分の手を空にかざした。



『俺は、後どれほど、この世界に居られる時間が残されているのかな』

その声は、悲しげだった。





「…熱下がらないアル…」
「薬、効かないのか?明日までに下がらなかったら病院行くか」

声が、聞こえた。頭が酷く痛い。ぼーとして思考が定まらない。身体の節々も痛い。布団を何枚も被っているのに、寒かった。

「…喉が…」
「あっ、ツナ。大丈夫アルか?」
「喉…」
「喉乾いたのか?」
「冷たい方がいいネ。冷蔵庫から持ってくるアル」

神楽はトコトコと部屋から出て行く。お粥の時とは違い、少し静かになっているのは綱吉を気遣っているからかもしれない。

「大丈夫か?…なわけないか。起きられるか?」
「……」

綱吉は頷いてから銀時の手を借りて、起き上がった。動くと頭ががんがんするが、起き上がれないほどではない。

「起きたとき…」
「ん?」
「銀さんは…誰がいたんだろう…」
「おいおい…俺にも分かるように言ってくれ」
「駄目ですよ…」

綱吉は熱で赤い顔で、へらりと笑った。

「約束ですから…」
「…意味分からねぇぞ」

水を取り替えに行ったプリーモが帰ってくるまでに、銀時が目を覚ましたら側にいるのはあの子供達だ。逆に、目を覚まさなかったら、林檎だけが残される。
だが、プリーモだったら何だかんだで二人をそこに止めそうだ。目を覚ましたら、そこに友達が居る。それはとても幸せだ。

「居たら…いいなぁ」
「おーい、ツナ。銀さんを無視しないでぇ」

そう言えば、水を汲みに行くプリーモが何か言っていた気がする。何だったか…今の頭ではよく考えられない。何か、重要そうな事だった気がするのに…。

「何だったっけ…」

どうしても、思い出せなかった。





「終わった…終わった…」
「信じられねぇ…終わったぜィ…」
「死ぬ気でやればどうにかなるもんなのな…」

真選組の屯所。そこには、ぐったりとしている獄寺達の姿があった。
一日で、十キロは体重が減った気がする。勿論、そんなことはないのだが。精神的にはそれくらいの働きだった。三人はそれを確信している。

「十代目の見舞いに…」
「もう日が落ちてるぜィ?明日にしたらどうでィ」
「んー、でも、行けない時間じゃないのな」
「よく言った山本。行くぜ」

獄寺と山本が立ち上がる。そうすれば、嫌々という体で沖田も立ち上がる。

しかし、獄寺と山本はあることに気付く。書類仕事からの集中を解いて、他に意識を向けることでようやく気付いた。

「ボンゴレリングが…熱い?」

僅かに。だが確実に。ボンゴレリングが熱を持っていた。
それは、何かを訴えるかのようだった。






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