第四章 第十二話     60/115
 




「さて、お前は思い出したみたいだな」
「思い出したというか、記憶を見たというか。どうしてボンゴレリングのことを知っていたんですか?」
「ジョットから聞いたからだよ」
「…何話してるんだ、プリーモ…」

当時の彼はただの子供だったのに。異世界の指輪の機能のことなど、話してどうするつもりだったのだろうか。
何より…。

「よく信じましたね」
「いろいろ破天荒な奴だったからな。それくらいはあるかもしれないと思ったんだよ」
「…本当に、どんな人だったんですか」
「ガキみたいな奴だよ」
「ガキ?」
「ガキみたいに、理想を口にする奴だった」

高杉は、煙管を吸い、紫煙を吐く。それは、少し悲しそうだった。

「そう、ですか」
「おう」
「なら、俺もガキでいいです」

綱吉は高杉の目を見ながら言う。高杉は不機嫌そうだった。しかし、綱吉がそう言うのを分かっていたのだろうか。「ふん」と言っただけで、それ以上は言わなかった。

「銀さんとは会わないんですか?」
「何でそこで銀時が出てくる」
「この間、銀さんにわざと会いませんでしたよね?」
「…てめぇら一族の超直感はプライバシーや遠慮がねぇのか」

高杉は溜め息をつく。その言葉には綱吉も同感だった。
何故だかこの世界で大活躍している超直感だ。強まっている理由は不明だが、この男のように何も言おうとはしないだろう人を相手だと助かる。

「で?銀さんとは?」
「会ったらぶった斬るって言われているな」
「…何やったんですか?」
「道が分かれた」

高杉は煙管を吸う。

「それだけだ」

それに、感情は感じなかった。今度は綱吉が溜め息をつく。

「喧嘩をしたら、仲直りですよ」
「はっ。『喧嘩と仲直りはワンセット』か?」
「仲直りしたらお八つを分けてあげます」
「いるか」

高杉は笑う。綱吉も笑った。
二人の間に何があったのか、綱吉は訊かなかった。勿論、銀時にも訊けない。彼等から話してくれるのなら別だが、訊いても話してはくれないだろうと分かっていた。
それは、心配を掛けまいとしているからかもしれない。
それは、綱吉が余所者だからかもしれない。
分からなかった。分からないことだらけだ。超直感があっても、分からないことばかりだ。

「…晋助さんの意地っ張り」
「どうやら本当に殺されたいらしいな」
「お断りです」

綱吉は空を仰いで、また「意地っ張りィ」と力なさげに言った。高杉は呆れているのか、また煙管を吸うだけで何も言わない。
自分では彼を変えることは難しいだろう。何て言ったって、赤の他人だ。
そう言えば、プリーモはどうだったのだろう。

「晋助さん」
「何だ」
「プリーモ…ジョットは、貴方にとって何でしたか?」

それは高杉にとって予想外の質問だったのだろう。ぽかんとしていた。恐らく貴重な顔だ。しっかりと見ておこう。
しかし、すぐにいつもの無表情に戻る。いや、いつも通りではない。考え込んでいる。そんなに難しい質問だっただろうか。

「…何だったんだろうな」

暫く後、高杉はそれだけ言った。
奇しくも、それは銀時の想いと同じ答えだった。

「…変人、でしたらしいですからね」
「ああ。変人だった」
「それじゃ、それは宿題で」
「宿題だ?」
「はい。俺はちゃんとやってきたんですから、晋助さんもやってくださいよ?」
「ちっ…」

不本意そうだが、高杉は了承したようだ。断りはしなかった。

「お前は食えない奴だな」
「それは初めて言われました」
「いつもこんななのかよ」
「そう言えば…こんな会話はあまりしませんね」

綱吉が高杉相手に普通に話せるのは、彼自身よりも、彼の子供時代を知ったのが先だったからかもしれない。目線が近いのだ。彼を、いい大人と言うよりも子供が大きくなったと感じる。

「子供を見守る親戚のように思っているのかも」
「その台詞でお前をぶった斬ることが決定した」
「嫌ですって」

気が付けば、すでに陽が昇っている。随分と時間が経っていたらしい。そろそろ帰らなければ。

「俺、もう行きますね」
「クク…ガキが一人だと、心配する奴がいるからな」
「はい。晋助さんも、仲間が心配しますよ」
「俺はもうガキじゃねぇよ」
「指名手配犯ではありますけど」

こんな堂々としているものなのだろうか、指名手配犯と言うものは。
綱吉は万事屋への道を向く。しかし、歩き出す前に高杉に言った。

「それじゃ、『また』会いましょう」
「『また』な」

綱吉は歩き出す。



その背に、声を掛けられた。



「思い出せ。全てを。――約束を」



振り返ったとき、そこにはもう誰もいなかった。






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