第四章 第十一話     59/115
 




「お久しぶりです」

綱吉は振り返る。そこには、隻眼の男――高杉が立っている。
女物の着物を優雅に着こなし、右手には煙管を持つ。絵になる男。高杉は当然のように綱吉の後ろに立っていた。

「ククッ…お久しぶりです…か」
「そうでしょう。この間会って、今まで会えなかったんだから」
「それもそうだな」

そのまま、彼は隣に並ぶ。これで、あの時と同じ立ち位置になった。

「こんな早朝にご苦労なこって」
「それは貴方も同じでしょう。こんな早朝にどうしたんですか?」
「俺は散歩だ」
「じゃぁ、俺も散歩です」

綱吉達は目を合わせない。二人で隣に並び、前を見ている。

「…嘘です。散歩じゃありません」
「奇遇だな。俺も散歩じゃない」



「貴方に会いに来ました」
「お前に会いに来た」



約束はしていない。会える保証も、どちらにもなかった。
それでも、彼等は此処に来た。



「晋助さん」
「宿題はやって来たみたいだな」

二人はようやく、目を合わせた。二人とも笑っていた。

「俺が此処に来なかったらどうしたつもりですか?」
「その言葉、そのままお前に返すぜ」
「俺は、また日を改めて来る気でした」
「俺もだ」
「指名手配犯がそれでいいんですか?」

綱吉は呆れたように溜め息をつく。
彼がテロリスト――攘夷志士だと言うことは知っている。というか、今日知った。此処に来るまでに、張り紙を見た。どうして今まで気付かなかったのだろう。
彼は――高杉晋助は、危険な人物だ。それでも、今目の前の彼を、通報する気にはなれなかった。

「ククッ…お前は変な奴だな」
「よく言われます。甘い奴だって」
「そうだな。甘い。ジョットと同じだ」

高杉の言葉は、綱吉に響いた。

ジョット。

彼は、彼も、知っているのだ。綱吉の先祖のことを。

「プリーモは…ジョットは、どんな人でしたか」
「変な奴だったよ」
「…銀さんと同じ事言うんですね」

そう言ったら、高杉は嫌そうな顔をした。彼でも、このような顔をするのだ。いつも不敵に笑っているイメージがあった。

「そんな顔しないでください」
「何でお前に指図されなくちゃならねぇ」
「わがままですね」

この人は子供みたいな事を言う。たまに見せる顔は、銀時と似ているところがあった。

「どうして此処に来た」
「貴方に会いに」
「どうして俺に会いに来た」
「どうしてでしょうね」

綱吉は口元に笑みを浮かべる。それが気に食わないようで、高杉は苦々しい顔になる。それを見て、更に綱吉は笑った。
何故だか、とても楽しかった。

「ふっ…くっ…」

何故だか、声を上げて笑ってしまいたかった。それはいくらなんでも不味いだろうと思い、我慢した。
高杉は、不機嫌そうにそっぽを向いた。

「…何笑ってやがる」
「何だが、面白くて、…ふっ」
「殺すぞ」
「駄目ですよ。そんなこと言っちゃ。怒られますよ」

誰にだろう。此処に、彼を怒る人などいないのに。

「ジョットにか」
「プリーモかもしれませんね」

綱吉は、あははと笑った。高杉も、小さく笑っていた。






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