第四章 第十話     58/115
 




夢を見た。

それが、過去の夢だと、今はもう分かっている。



『鮮やかな紅だろう?』

『そうだな…夕日みたいだ』

『夕日か…詩人だな』

『うっ…うるせい!!』

『俺は炎みたいだと思った』

『炎?』

『ああ。燃えているみたいだろ?』



それは、あの男との会話を思い出させた。

「高杉さん…」

彼は、血の色だと言っていた。

「昔は…夕日に見えたんですね」

プリーモが摘んでいた花。

それは、彼が綱吉に問うた花だった。





綱吉は、早朝の街を一人で歩いていた。

夢から目を覚ませば、銀時も神楽もまだぐっすりと寝ていた。当然だ。まだ陽も昇っていない時間帯だったのだから。
しかし、その日も陽もすぐに昇る。

「ちょっと不味かったかな…」

『ちょっと散歩に行ってきます』、と書き置きをしてきた。しかし、起きてその書き置きを見た彼等は、綱吉の心配をするに違いない。
早朝の街を子供が一人で歩くのは、危ないことだと綱吉も分かっている。

一人で街を歩くのは久しぶりだった。今まで、誰かが一緒にいるのが常だったのだ。
この街に慣れない綱吉を心配してのことだったのだろう。異世界から来て、何か危ない目に遭うかもしれないと思っていたのかもしれない。いつも万事屋の誰かがいてくれた。
銀時があの依頼で離れたのは、珍しいことだったのだ。ずっと何もなかったから、もう大丈夫だと思ったのだろう。しかし、暫く離れて、見付けたら綱吉は白昼夢を見ていた。
急に白昼夢を見だす者を一人で外出させたら不安だ。誰かが一緒に行ってくれるのは変わらなかった。それも、綱吉には気付かれないように気遣ってだ。綱吉は気付いてしまったが。流石超直感。この世界に来て絶好調だ。

彼等の気遣いは嬉しかった。しかし、僅かの躊躇いの後、綱吉は歩いていた。想いを押さえられなかった。

一人で行きたかった。二人っきりで会いたかった。

向かう先は、あの花屋。





店は閉まっていた。当然だ。まだ東の空が仄かに明るくなってきているだけで、陽も出ていない時間だ。店が二十四時間営業のコンビニなら兎も角、ただの花屋が開いている訳がない。
この花屋だけではなく、その商店街の店は見た限り全て閉まっている。人も、此処には見られなかった。
綱吉は花屋の前に立つ。あの時と、同じ位置だ。

彼が来ると言う確証はなかった。約束など、していないのだ。彼が此処に来たのはあの時が初めてだったかもしれないし、もう二度と来る気はないかもしれない。
それでも、綱吉は再び花屋を訪れた。彼に会う術を他に知らない。
それに、彼は言ったのだ。『また』な、と。綱吉も、また会える気がした。

十分が経った。誰も来ない。それでも綱吉は花屋の前に立っていた。
今日会えなかったら、また別の日に来れば良い。綱吉は軽い気持ちだった。しかし、会えるまで通おうとは思っていた。

二十分が経った。まだ、誰も来ない。道には、人一人いない。
綱吉は目を閉じて、溜め息をついた。すぐ来るとは思っていなかったが、何もしないで待っているというのも退屈だ。次からは何か持ってこようか。
せめて店が開いていれば、品物を見て楽しむことも出来るのだが。綱吉はシャッターが閉まっている店頭をジーと見る。勿論、それでシャッターが開くことはない。
綱吉は、また溜め息をついた。



後ろから、声を掛けられた。



「よう」



あの時と、同じ声だった。



「また会ったな」



夢の子供の、声変わりした声だ。






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