第四章 第九話     57/115
 




夜。雲に隠れることなく、満月は空にその姿を現していた。
そしてそれを眺めながら、銀時は一人、酒を傾ける。

夕飯の、綱吉の一ヶ月記念歓迎パーティーは賑わった。
久しぶりの肉を食えると言うこともあってか、神楽ははしゃぎ回っていた。いつぞやの心理戦が繰り広げられた鍋とは違い、今回は普通の鍋が出来た(肉の割合はきちんと分けたが)。冷蔵庫で冷やしていたジェラートも美味しかった。

今は一人で、その楽しさとは違う想いで酒を飲む。
新八は家に帰り、綱吉と神楽はすでに夢の中だ。今、起きているのは銀時のみ。

「……」

くいっ、と、また酒を飲む。しかし、いまいち味が分からなかった。

「やっぱ安酒だな…」

呟いてみる。勿論、応えてくれる者はいない。銀時も、期待はしていなかった。
酒の味を感じないのは、安いからではない。気が乗っていないのだ。自覚はあった。
実感が湧かなかった。



アイツ、もう死んじまってるのか。



綱吉は何も言わなかった。しかし、曾曾曾爺ちゃんなんて者になっていたのだ。もう生きているはずがない。
綱吉にとっては、百年以上も前の先祖だ。銀時にとっては、子供の時の……。
子供の時の、何だったのだろうか。彼は。

「何だったんだろうな、ジョット」

綱吉は、彼のことをプリーモと呼んだ。イタリア語で、T世という意味らしい。
その呼び方を聞いたとき、銀時は違和感があった。自分は、そんな呼び方をしたことはなかったから。
銀時達は、彼を本名で呼んでいた。

「マフィアねぇ…」

確かに何かの組織の頭だと言っていた気もするが、どうだったか。なんせ、子供の時の記憶だ。しかも、ジョットと過ごした時間は、決して長くない。
にしても、マフィア。あの男が。銀時の感想は、正直一つだった。

「似合わねぇ」

銀時は小さく笑った。
あの男ほど、マフィアという言葉が似合わない男も珍しかろう。綱吉にも似合わない。
似ているのだ、彼等は。

「やっぱ、先祖だからかね」

この世界では二十年ほどの時間が経った。しかし、綱吉の話では、ジョットは百年以上も前の人物らしい。
異世界なんて物のことだから、このような時間差があってもおかしくないのかもしれない。
異世界そのものが不思議の塊なのだ。一つ疑問が増えたところで、大した変わりはない。

しかし、理屈と感情は違う。

銀時は月を見上げる。それは、彼の髪色に似ていた。



「アンタに、もう一度会いたかったよ。ジョット」



銀時の言葉に応える者はいない。

また、一人酒を飲んだ。






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