第四章 第六話 54/115
「いやー、肉が安く買えて良かった」
「タイムサービスってあんなに凄いんですね」
その日の夕方。銀時と綱吉は買い物帰りだった。
本日は綱吉がこの世界に来て一ヶ月だと言う神楽の台詞で、なんと万事屋で記念パーティーをしてくれると言うのだ。
綱吉はそれが嬉しかった。買い物組になり、荷物持ちをすると名乗り出た。結局は同じ買い物組の銀時に殆ど持たれてしまったが、綱吉の胸は喜びでいっぱいだった。
「今夜は久しぶりにすき焼きだな」
「そうですね!」
銀時は、にこにことして嬉しそうな綱吉を横でちらりと見た。そして、安心したように息をついた。
朝、綱吉は何か考えているようで心配だったが、もう大丈夫そうだ。荷物を持ち直してそのまま歩く。
すると、進行方向から、高校生と思われる女の子が二人歩いてきた。その二人の手に握られているのは…。
「アイス?」
「いや、ありゃジェラートだな」
美味しそうにそのジェラートを食べている彼女達。
「そういりゃ、そこに新しいジェラート屋が出来たってあったな」
銀時のその言葉は、綱吉の耳には入らなかった。綱吉の頭の中にあるのは、今朝見た夢のこと。
『ジェラートとかあるぞ?甘くて冷たいんだ』
『へー、旨そうだな。イチゴ味はあるか?』
『あるぞ。いつか食べてみると良い』
彼等の会話が、頭に蘇る。女子高生と擦れ違う時も、目でそれを追ってしまった。
「何だ、ツナ。食べるか?」
「え?」
「ジェラートだよ。まだ金はあるし、食後のデザートにでも買ってくか」
銀時はそう言って道を曲がってしまった。その道は万事屋への道ではない。恐らくジェラート屋への道だ。
「ぎ、銀さん。別に俺は食べたい訳じゃ…」
「そう言うなって。パーティーにデザートがないんじゃ寂しいだろ」
銀時はどんどんと進んでいく。もう彼の中では買うことが決定しているようだ。
食い意地が張っているようで少し恥ずかしかったが、食べたいかと言われれば食べたいので、綱吉も大人しく付いていった。
しかし、やはり、頭の中には今朝の夢が離れない。
「おっ、此処か」
銀時は店を見付ける。屋根は赤く、こぢんまりとしているが、新しいためもあってか綺麗で、好感が持てる外装だった。
店の前にあるメニューに銀時は目を通す。そこにはその店の全種が、写真付きで書いてあった。
「どれにするか…やっぱり…」
綱吉は、思わず言った。
「イチゴ…ですか?」
「んあ?よく分かったな。まぁ、正確にはストロベリーだ」
綱吉は、その時何も言えなかった。
「昔、薦められたことがあってな。ジェラートを。それから食べてみたくて…」
銀時の言葉は、綱吉には入ってこない。
「ツナ?」
綱吉の目は、銀時を見ていなかった。
『俺は甘い物なら何でも好きだぞ』
『そうだな。バニラ、チョコ、ヨーグルト…沢山の種類があるんだ。勿論、イチゴ…ストロベリーも旨いぞ』
『食いてェな』
『松陽は何が食べたい?』
『私ですか?私は…そうですね、妥当に一番人気の物を食べてみたいです』
『なら、バニラかな。迷ったらバニラだ』
『あとイチゴだぞ!』
『なら、イチゴとバニラだ』
男は笑う。銀時と呼んだ子供と笑い合う。
その子供の瞳に映る男の姿が見えた。
その男の姿は――――。
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