第四章 第五話     53/115
 


『甘い物は世界を救う』

『同感だ。気が合うな』

『おお、アンタもそう思うか』

『何を言ってるんですか』

『おお松陽。今日のお八つは何だ?』

『はー…今日は桜餅ですよ』

『桜餅!“雅”だな!“大和撫子”に合う菓子だ!』

『そう言う日本文化は詳しいのですね』

『あれか?《あっち》にもあるのか?』

『ふふふ、よく訊いてくれた。勿論あるぞ。俺は日本が好きでな。勉強は惜しまない』

『アンタ、イタリアに住んでるんだっけ?』

『ああ。イタリアも良い街だぞ』

『どんな菓子があるんだ?』

『そうだな…ジェラートとかあるぞ?甘くて冷たいんだ』

『へー、旨そうだな。イチゴ味はあるか?』

『あるぞ。いつか食べてみると良い』



男は子供の頭をポンと叩いた。



『銀時もきっと気に入る』





「…銀さん?」

目を覚ますと、そこはすでに見慣れ始めた天井。見慣れた木目、見慣れたシミ。それを暫くぼーと見詰める。

「……」

最近では、見ている夢を何となく覚えているようになった。
男の視点で過ごし、基本的に『晋助』と言う名の子供を含めた三人の子供と、『松陽』と言う名の先生と呼ばれている男が出てくる。
そして今日、子供の一人の名が判明した。

「どうして…銀さん?」

夢で出て来た『銀時』は自分が知っている万事屋銀ちゃんの主である『銀時』の事なのだろうか。だとしても、年齢が合わない。銀時はもう大人だ。
しかし、あの子供が綱吉の知っている銀時だと仮定すると、あの夢は…。

「…過去?」

未来に行き、異世界に来たら、今度は過去を夢に見るとは。自分ほど不思議体験をしている人間は、そうはいないのではないだろうか?

「でも…何で銀さんの過去?」

いや、正確には銀時の過去ではないのだろう。違うと自分の特殊な感が告げている。
あの夢は、男の記憶だ。

「んー…誰だろ」

綱吉はごろんと寝返りを打つ。
男の視点で見る夢。あの男を、自分は知っている…気がする。これもまた感だが。この世界に来て強くなっている気がするこの超直感が告げているのだ。無視はしない方が良いかもしれない。
……確信がないことばかりだ。『気がする』『かもしれない』。そんなことばかりではいけないのは分かる。

「でも…」

確信に変えることが出来るかもしれないことがある。
銀時に訊くことだ。
あの夢で出てきたモノで、何か訊けばいい。それが正しければ、過去の出来事であるかも、あの男が誰なのかも分かる。

「うー…」

だが、訊きにくい。
過去の事を言い当てられて、引かれたらどうしよう。いや、彼だったらそんなことを気にしないかもしれないが。
それよりも、もし、訊かれたくない事だったらどうしよう。誰だって訊かれたくないことはある。綱吉だってマフィアの事を訊かれるのは、出来れば嫌だ。
しかし、訊かねば夢の真相には近づけない。

「どうしよう…」
「何がだ?」
「うわぁっ!」

襖を開けて銀時が顔を出してきた。どうやら綱吉の独り言を聞かれていたらしい。

「さっきから唸ったり呟いたり…何かあったのか?」
「いえ…その…」

訊け。訊くんだ。別に訊いても何ともないことかもしれないじゃないか。

「銀さん」
「どうした?」
「その……………………おはようございます」
「…おはよう」

自分の小心者。
綱吉は心の中で泣いた。








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