第四章 第四話 52/115
「晋助様!お帰りなさいッス!」
武装された船。帰ると一番に迎えたのは、露出の多い服を着た、金髪の女だった。
「あれ?花っスか?珍しいっスね。はっ!まさか自分にプレゼ…」
「ちげぇよ」
高杉は女――来島また子の前を素通りして行く。その手に一輪の紅い花を持ったまま。
「晋助様ァ、その花どうするっスか?」
「さぁな」
高杉は素っ気なく返し、そのまま振り返ることなく私室に入ってしまった。
「晋助様ァ…その花、誰かにあげるンですかァ?」
また子は少しの間部屋の前で返事を待ったが、予想していたとおり返事はない。予想をしていても、ショックは受ける。また子は肩を落とした。
また子はお茶でも持ってこようと思い、その場を離れた。もっとも、その途中で署名活動をしていた某変態を見付けてそれを撃退していたので持っていくことはなかったが。
一方、部屋に入った高杉はそのまま窓際に座り、花を手でくるくると回す。
「炎…か」
高杉は弄んでいる手を止めて、じっと花を見る。
「炎には…あんま見えねぇな。だが…」
花を買うとき、名前を確認しなかった。気にならなかったのが本音だが、記憶にある会話が頭を過ぎらなかったと言えば、嘘になる。
名前を知らなくとも…。
「綺麗なモノは綺麗、ね」
高杉は、ぽいと花を部屋の片隅に投げて三味線を構える。
シャンシャン シャン
「腐っている国は、腐っている」
高杉はゆっくりと目を瞑る。瞼の裏に映るのは、昔に出会った男の顔と、今のこの世にいる子供の顔だ。
まったく…同じ事ばかり言いやがって。
まるで、昔に戻ったかのようだ。
そんなはず、あるわけがないのに。
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