第一章 第二話 3/115
少年は凄い勢いで綱吉に頭を何度も下げる。少女にも頭を下げさせようと手で頭を押しているが、少女の頭はピクリとも動かない。小さな少女の持つ力に、綱吉は内心驚いた。
「あっ、いや、たしかにしていましたけど、俺逃げたし、大丈夫ですよ。そんな謝らないでください」
綱吉は頭を下げてくる少年に言った。まるで少女のお母さんみたいだと思ったのは秘密である。
「神楽ちゃん。だめだよ。いい人だから良かったけど、普通はものすんごい怒られるからね」
「黙れダメガネ」
「反抗期!?」
「あの・・・猫は・・・」
話が脱線していきそうだったので綱吉は声をかけた。
「あっ、すみません!捕まえてくれたんですね。ありがとうございます。僕たち、この猫探していたんです。ほら、おいで・・・って痛ぁぁぁぁぁ!!!」
捕まえようとした少年の手を猫が噛んだ。少年は手を引いたが猫は毛を逆立て少年を威嚇している。
(本当に瓜みたいだ・・・)
瓜とその主人もこんなやり取りを何度もしていた。それを思い出しながら、綱吉は猫に手を伸ばした。猫は綱吉には抵抗せず、難なく抱き上げられる。
「・・・なんでだぁぁぁぁぁ!」
出会ってまだ何もしていない少年と、出会ったばかりの綱吉。二人には違いはほとんどない。なのに、この差は何だろうか。動物とは不思議なものである。
「あの・・・俺が連れて行きましょうか?」
「その必要はないネ。殴って気絶させれば・・・」
「駄目ぇぇぇぇぇぇ!!どうしたの神楽ちゃん!!お腹減ってるの!?だからそんなに不機嫌なの!?」
少年は少女を必死で止める。そうでもしなければ少女が本当に実行に移しそうだ。
「あの、本当に俺が連れて行きましょうか?これから俺用事・・・ないこともないですし・・・大丈夫ですよ?」
「・・・お願いできますか?無傷で連れ戻してくれって言う依頼でして・・・」
どうせ自分には行く当てがない。ここで少し街を歩いた方がいいだろうし、一人よりも誰かいたほうが安心だ。それにあの犬。公園の子ども達が何の反応もしないということは、普通の事なのだろう。あんな大きな犬が普通の街を一人で何も知らずに歩くのは、かなり恐い。拒否する。
綱吉は少年の言葉に頷いた。
綱吉は街を少女――神楽と少年――新八と共に歩いた。その結果。
(何だこの街ィィィィィィィィ!!!!)
街は和風かと思えば現代風の店もある。空には屋形船のような物や見たこともない乗り物が飛びかい、そしてなにより・・・
(宇宙人がいるぅぅぅぅぅぅ!!!)
明らかに人間ではない者が平然と歩いている。正直、綱吉は叫び出したい衝動に駆られたが、どうにか我慢した。
「いやぁ、綱吉君がいい人で本当に良かった!神楽ちゃんを許してくれるし、猫も捕まえて、その上一緒に連れてきてくれる!助かるよ!」
「新八、お前銀ちゃんどうしたネ。一緒に探してたんじゃないアルか?」
「銀さんとは途中で別行動になったよ。全然見つからなかったからね、猫」
「本当アル。綱吉が捕まえてくれて良かったネ。・・・綱吉?」
「・・・え?」
二人がこちらを心配そうに見ている。しまった。あまりの事に意識が飛んでいた。
「どうしたアルか?顔色悪いアルよ?」
「あっ、いや、その、ここどこかなぁって・・・」
思わず思ったことをそのまま言ってしまった。しかし、後悔よりも先に驚くべき事を言われる。
「ここ?歌舞伎町ですよ?」
「・・・・・え?」
「だから、歌舞伎町ですよ。江戸の」
綱吉の脳内はショート寸前だ。
(カブキチョウ・・・それって東京にある・・・えっ、っていうか江戸?江戸って・・・)
「江戸ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
思わず立ち止まって叫んでしまった綱吉。彼の事情を知っている方なら誰も彼を責めずに不思議に思わないだろうが、二人は違う。
「え!?どうしたの綱吉君!?えっ、何?僕不味いこと言った!?」
「どうしてくれるネ、新八。綱吉真っ青になったアル」
「え?何で?まさか迷子だったとか?この辺じゃ見ない制服だし・・・何処の寺子屋?」
「・・・並盛の・・・並中です・・・」
「「並中?」」
綱吉は藁にも縋る思いで言ったが・・・
「ん〜、ごめん。わからないや。どの辺?近くの物は?」
「少なくとも宇宙人はいません・・・」
綱吉はもう反射的に質問に答えた。
「天人がいない!?それどういうこと・・・」
「新八。ともかく今は猫を依頼主に返すネ。話は報酬でメシ食いながらアル。私の腹はもう限界ね。空きすぎてもう鳴りもしないアル」
「あっ、うん・・・」
どうやら三人は後藤さんの家の近くまで来ていたらしい。しかし綱吉はそれどころではなかった。
和服に大きな犬に歌舞伎町に宇宙人――天人というらしいに、江戸。もはや日本かを疑う前に次元レベルで疑った方が良いかもしれない。つい先日まで十年後にいたのだ。江戸時代にまで来たのかもしれない。
しかし江戸時代でもないだろう。江戸がこんな世界だったら現代にも宇宙人がいるはずだし、少なくとも何かしら記録があるはずだ。だとしてあと考えられるのは・・・
(パラレルワールド?)
未来で戦った青年――白蘭はパラレルワールドを覗けた。パラレルワールドは存在する。ならばこんな世界もあるのかもしれない。
(でもどうして俺がここに・・・それよりもどうやって帰れば・・・)
どうしてこうも自分はついていないのだろう。しかも未来の時とは違って、知り合いにもまだ会えない。そもそも知り合いなどいるのだろうか。
(・・・・・泣きたい)
泣いてどうにかなると言われたら自分は力の限り泣くだろう。しかしどうにもならない。どうにもならないが泣きたい。せめてここにいる理由と、一緒に帰宅していたはずの二人が無事かが知りたい・・・。
「あっ、銀ちゃんに・・・ヅラ」
かなりネガティブになった綱吉。それを心配そうに見る新八に神楽。その三人の前方から銀髪パーマと黒髪長髪の青年が歩いてきた。
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