第四章 第一話 49/115
「ったく…浮気調査なんてめんどくせぇことこの上ないぜ」
「でも、浮気じゃなくて良かったですね」
銀時と綱吉は人通りの少ない道を歩いていた。これから依頼人と会う約束があり、その場所に向かっているのだ。
浮気調査の報告なんてものを、間違っても知り合いに聞かれたくはないという依頼人の希望で、寂れた喫茶店での待ち合わせだ。しかし、先ほどまでこの浮気調査をしていたので、時間がぎりぎりになってしまった。そのお陰で結果は浮気ではないと分かって良かったが、待ち合わせに遅れるのは信用に関わる。
「あー、ツナ、ここら辺で待ってろ」
「え?何でです?」
「浮気調査ってのはな、子供に知られるのは恥ずかしいモンなんだよ」
銀時はめんどくさそうに頭を掻く。
「安心しろ。しっかりぼったくって来る」
「いや駄目ですって!何言ってるンですか!」
銀時の言葉に綱吉は突っ込む。しかし、依頼人の心情も考えるのは大切だ。銀時の意見も分かる気がする。
綱吉は他の場所で待っている事にした。
「まぁ、浮気じゃないンだから話も早く終わるだろ。そこら辺ぶらぶらしてろ。終わったら迎えに行く」
銀時は綱吉の頭を強めに撫でる。子供扱いされている気もするが、銀時から見れば、確かに自分はまだ子供なのだから仕方がないのかもしれない。しかし、ここまであからさまな子供扱いをするのは母親を除いたら殆どいないので、少々新鮮だ。
「いってらっしゃい」
綱吉は手を振って銀時を見送る。彼がぼったくらないことを祈るのみだ。
「どうしようかな…」
銀時が言ったように、この通りをぶらつくのも良いのかもしれない。あまり遠くに行けば綱吉自身が迷う可能性があるのでそれは出来ないが、店もいくらかあるし、一時間は時間を潰せるだろう。
綱吉は店をちょっとずつ覗きながら歩く。アクセサリー屋、団子屋、呉服屋。どの店もあまり人がいるとは言えないが、落ち着いている雰囲気だ。
「……あ…」
何となく、花屋の前で足を止めた。いつもは興味なく通り過ぎるが、花屋の花というのは綺麗なモノばかりで、近づけばその香りに癒される気がする。
「たくさんあるな…」
勿論、綱吉に詳しい花の種類など分かるはずがない。友人である女の子達は花よりもケーキが好きそうだが、こういうのも好きなのだろうか。今度訊いてみよう。
店の前で立ち止まり、花を眺めている。
後ろから、声を掛けられた。
「よう。どうした?こんな所で」
何故だろう。知っている人の声である気がした。
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