第三章 第十五話     48/115
 



「……『しんすけ』って、誰?」

目を覚ましたとき、銀時はすでに起床していた後だった。だから、綱吉の寝起きの疑問を聴いた者はいない。

「…何の夢…見てたんだっけ…」

夢という物は、起きたらすぐに忘れてしまう。それは誰でも同じ事だ。
しかし、同じような夢をずっと見ていたら話は別だ。覚えていることはある。
『しんすけ』と言う名が聞き取れた。いつも名前の所は靄が掛かったかのようによく聞き取れていなかったのだが、今回はようやく聞こえた。
しかし、誰のことだ?聞いたことがない名だった。

「第一、 夢に意味があるとは限らないし…」

着替えながら、綱吉は呟く。

伊東の反乱が治まった後、綱吉はいつも通り倒れた。しかも、今回は二日も気を失っていたらしい。
長い時間超死ぬ気モードになっていたせいかもしれないが、皆に心配を掛けてしまったようだ。起きたら怒られてしまった。
しかし、最近は気になることが起こっている。気絶した時だけ見ていた夢を、普通に寝ると見るようになった。毎日ではないが、今のところ二日か三日に一回ほど。
どういう変化だ。理由が分からない、意味があるか分からない、どうにかする方法も分からない、分からないことだらけだ。疑問も消化されていかないと、溜まるばかり。しかし、消化する手はない。
なので、いっそのこと深く考えないようにすることにした。害はないのだから、放っておこう。

あの騒動から、一週間。

「…山崎さん…」

山崎の死体は見付からなかった。
獄寺から、今日葬式だという話を聞いた。山本は真選組の幹部の犬の葬式だと聞いたらしいが、まさか犬と一緒に山崎の葬式をやったりはしないだろう。流石にそれくらいの良心はあるはずだ。

「……」

そして今日は、土方がお祓いから帰ってくる日でもある。
無事妖刀から解放されていると良いが…。

「おう、ツナ起きたか」

銀時が戸を開けて声を掛けてきた。隣の部屋から良い香りがした。すでに朝食が作られているらしい。
綱吉も席に着いた。





「ついに妖刀が身体から離れることはなかった」

だんご屋に腰掛け、私服姿の土方と話していた。
土方が団子にマヨネーズをかけたり、それを神楽が食べて吐いたりしていたが、それを除けば平和なものだ。

転職を考えた方が良いンじゃないかと言う言葉に、答えたのは意外にも銀時だった。

「まさしく剣身一体ってわけだ。てめーにおあつらえの剣じゃねーか」

土方は立ち上がる。何処に行くのかは、訊くまでもない。

「全部背負って前に進むだけだ。地獄で奴等に笑われねェようにな」

土方の背中は、彼の生き方を語っているかのようだった。

「…凄いなァ…」

一言で言ってしまうのは恥ずかしかったが、その想いが綱吉の素直な感想だった。
自分もああなりたいと言うわけではない。それでも、純粋に格好いいと思った。

「山崎さん…」

彼も、見ているのだろうか。どこかで。
そう思うと、少し悲しかった。



綱吉が山崎の生存を知るのは、二時間後だった。





ポクポクポクポク


「これ、もはや犬の葬式だろ」
「んー、みんなが何の疑問も持ってないのが凄いのな」

苦い顔をしながら葬式に出席する獄寺と山本。
葬式での皆の態度は悪く、携帯で通話をしたり、ジャンプを読んだりする者がいる始末だ。

「これ、良いのかよ?」
「いや、駄目だとは思うが…」

周りから聞こえてくる話には、土方はもう戻ってこないのではないかと言う不安の声もあった。
自分達は彼が妖刀に取り憑かれていたというのは知っているが、それを知らない者でも、彼の様子が可笑しかったのには気付いていたらしい。
これからどうなるのか、以前の真選組に戻れるのか、不安なのだ。

「今日戻ってくるんだろ?なら、もうそろそろここに来ても…」



ドゴォ!!



突然の外からの砲撃。その音に驚いて振り返れば、そこには吹き飛ばされた隊士と一緒に、今まさに葬式をやっている山崎の姿があった。

「山崎さん!無事だったのな!」
「今ので死んでなかったらな。てか、何故に死装束?」

頭に三角のもあり、まるで幽霊だ。しかし、足はちゃんと付いている。他人の空似とも考えたが、ラケットを持っているし、本人だろう。

「局中法度十二条」

そして、局中法度を唱えながら、外からしっかりとした足取りで歩いてくる男。
その姿を確認すると、不思議と笑みが浮かぶ。

「てめーら全員士道不覚悟で切腹だァァァァァァァァ!!」

真選組副長土方十四郎の帰還だ。
隊士は涙を流しながら、心底嬉しそうに土方に駆け寄る。
彼は、真選組に欠かせない人物だった。

「いやー、良かったのな!」
「取り敢えず、十代目に山崎が生きてたことを報告だな」



日常が戻ってきた。





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