第三章 第十三話     46/115
 




「総員に告ぐぅ!!敵の大将は討ちとった!!」

土方のその言葉で、真選組の隊士の士気は一気に上がった。
押されている敵は引いていき、真選組の勝利は決まったようなものだ。

外での戦いが終息に向かう時、電車の中には左腕を失った伊東、新八や神楽、綱吉達がいた。

伊東はもはや立っていることも辛いのだろう、椅子を背にして座っている。
新八は何故裏切ったはずの伊東が、自分達を庇おうとしたのかを訊いた。綱吉がいなければ、銃弾は伊東を貫いていたことは明白だった。
伊東は、それには答えなかった。

「君達は、真選組と言葉ではいいがたい絆で繋がっているようだ」
「ただの腐れ縁です」

伊東はその言葉に小さく笑う。
知らなかった、知ろうとしなかったと。
大切な絆を、自ら壊してしまった、と。

「何故いつだって、気づいた時には遅いんだ」

伊東の座っている床に、血が流れていく。
左腕だけではない、伊東はすでに数発の銃弾を身に受けていたようだ。落下から引き上げたときか、それがいつかは分からない。しかし、それはこの戦場では致命傷となってしまう傷だった。

「何故ようやく気づいたのに、僕は死んでいく」

綱吉は超死ぬ気モードを解いた。外での戦闘は終わっている。戦いは終わったのだ。

「綱吉君…だったね」
「はい…」
「君は…甘い子供だ…」
「よく…言われます」

伊東は辛そうにしながらも顔を上げて、綱吉を見た。

「だが…だから、ついてくる者がいるのだろうな」
「伊東…さん」

伊東は、そう言って咳き込んだ。咳は赤く、伊東の首元を染める。
戦いは終わった。終わったのだ。
しかし、これが結末なのか?こんなやるせない気持ちのまま、終わってしまうのだろうか。

「そいつをこちらに渡してもらえるか」

真選組の隊士達が入ってくる。
新八がそれを拒もうとするが、近藤がその言葉を止めて、伊東を連れて行くよう指示を出した。

「近藤さんどうして…」

新八が近藤の肩を掴み、振り向かせる。抗議をしようとしたが、その言葉を飲み込んだ。
近藤は涙を流していた。

伊東が外に連れて行かれて、すぐに自分達も外に出る。
外では、銀時が電車に寄っ掛かり、真っ直ぐと前を見ていた。

「ほっといたって奴ァもう死ぬ。だからこそ、だからこそ斬らなきゃならねェ」

真選組が円になり、その中心にまで伊東は運ばれた。土方も中心に入り、伊東に刀を投げる。

「最後は…武士として……仲間として、伊東を死なせてやりてーんだよ」

伊東は刀を左手に持ち、傷だらけの体でも立ち上がった。
彼は、笑っていた。

「土方ァァァァ!!」
「伊東ォォォォ!!」

誰一人目を反らさなかった。



一瞬の交差。
血が吹き出たのは伊東。
伊東はゆっくりと振り返る。



綱吉は目を見開いた。
伊東と土方の間に、光る糸が見える。それは土方だけではなく、近藤や沖田、真選組の隊士全員と伊東の間にもあった。
あぁ、そうか、これが…。


これが、彼の絆か。



伊東は涙を流しながらも、嬉しそうに笑った。それは今まで浮かべていたどの笑みよりも、満足げで。

綱吉は、それを見ていた。
彼が死んでしまうことは悲しい。しかし、彼はただの裏切り者として死ぬのではない。
彼は死ぬ。真選組の仲間として。笑って死ぬ。



「あり…がとう」



伊東鴨太郎最期の言葉だった。






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