第三章 第十二話     45/115
 




激しい銃撃音が止んだ。
生きている。自分の体だ、それくらいは分かる。しかし、伏せただけではあの銃撃の中で全くの無傷のはずがない。
すぐさま伏せていた顔を上げる。そこには、自分達を守るように立っている伊東の姿。
そして…。

「綱吉君!」

綱吉が伊東の更に前に立って、炎の壁を作っていた。伏せていた皆を守ったのは綱吉の炎だった。

「どうして…僕まで助けた?」
「皆を命賭けて護ろうとした。理由はそれで十分だ。それに…」

綱吉は銃撃が止んだのを確認してから、炎の壁を消して伊東に振り返った。

「お前は真選組の仲間だ」

綱吉は真っ直ぐと伊東の目を見て言う。伊東も、目を反らさなかった。

「友達の仲間を護るのは当然だ」

当然。当たり前。何もおかしいことはない。
彼は自分が近藤を裏切ったことを知っても、迷うことなく言った。

「君は…甘いな」

伊東は、どこか悲しそうに小さく笑った。

最初の銃撃が終わっても、次がある。ヘリの男は、電車の中の敵が誰も死んでいないことを見ると、また新しい銃を構えた。
しかし、それは発射されはしなかった。

「うおらァァァァァァァァ!!!」

万斉がヘリに激突した。勿論、彼の意志ではない。叩き付けられたのだ。
そして万斉と戦っているのは――。

「銀さんんん!!」





万斉は、叩き付けられても右手から放さなかった刀を銀時の左肩に突き刺す。

「んがァァァァ!!」

しかし、銀時は万斉をヘリに押さえ付けるのを止めはしない。

「白夜叉ァァ!!貴様は何がために戦う!何がために命をかける!」

万斉は刀を突き刺したまま叫ぶ。

もはやこの国は腐っている。もう、崩壊は決まってしまっている。

「この国は腹を切らねばならぬ!!」

引導を渡すのは侍の役目だ。
腐っている国を護ってきた、侍の役目だ。

「ぬしの護るべきものなどもうありはしない」

万斉は刀を強く握る。そして、突き刺していた刀をそのまま斬り上げた。

「亡霊は帰るべき所へ帰れェェェェ!!」

銀時はヘリから落ちていく。
万斉は三味線と刀を構えて、ヘリから乗り出す。

「鎮魂歌をくれてやるでござる」

万斉は銀時にトドメを刺そうとした。
しかし、弦がヘリに、そして自分にまで絡まっていることに気付く。それは万斉の仕業ではない。
絡まっている弦の先は、地上へと続いていた。

「オイ…兄ちゃん。ヘッドホンをとれコノヤロー」

そう、銀時の木刀へと。

「耳の穴かっぽじってよぉくきけ。てめーには言いたいことが山ほどある」

銀時は木刀を振り下ろそうと引っ張るが、弦の先はヘリに繋がっている。そう振れはしない。
ヘリの男が銀時に向かって銃を撃つが、銀時は構わなかった。

「ツナが、目的も、願いも、信念もない、ただのガキだって?」

銀時は思い出す。今までの彼を。

「ただのガキだったら苦労しねぇよ。ただの甘いガキだったら、何も苦労しねぇよ」

獄寺や山本と合流してから、綱吉は元の世界のことをよく話すようになった。
綱吉の通う学校のこと、他の守護者のこと、家にいる居候のこと、たまに遊びに来る兄貴分のこと、赤ん坊の家庭教師のこと。――戦いのこと。
戦いのことを、少しずつ、話してくれた。
今までは、心配させたくないと思って話さなかったのだろう。しかし、マフィアのことがばれていることもあってか、訊けばそのことについても話してくれた。
それは、『ただの子供』の平和な日常とは懸け離れていた。


『嫌じゃないアルか?』

ある日、神楽が訊いたことがある。それは、夕飯の準備の途中、綱吉の未来での戦いを少しだけ言っていた時だった。
神楽は前から考えていたことなのだろう。綱吉が、マフィアの次期ボス候補である世界に戻りたいかどうか。安全ではない世界に戻りたいのかどうか。彼女には巫山戯た様子はなく、真剣そのものだった。
綱吉はその問いに驚いたように眼をぱちくりさせてから、太陽のような笑顔で答えた。

『俺はあの世界が好きだよ』

みんなで失敗をして怒られて、些細なことで悲しんで、馬鹿なことをして笑い合える、そんな日常が大好きだ。
それが、綱吉の想いだった。


「目的のないガキがあんな風に頑張るか?
 願いのないガキがあんな風に笑うのか?
 信念のないガキがあんな風に戦うのか?」

綱吉のあの戦う状態は、超死ぬ気モードと言うのだと聞いた。死ぬ気丸と言うのを飲んで、あの状態になるらしい。つまり今、綱吉は自分の意志で超死ぬ気モードなっている。
彼は、死ぬ気丸を飲むのに迷いはなかったのだろう。飲んだら、どうなるのか分かっているのに。

自分のことよりも、仲間のことを考える子供なのだ。
自分のことよりも、仲間を大切にする子供なのだ。

「ただのガキが、あんな風に誰かを護ろうとするのかよ」



あいつは、優しいガキだよ。



ヘリは銀時の木刀に引っ張られていく。

「俺は、安い国なんぞのために戦った事は一度たりともねェ」
『世界のためだって言われても、ピンと来なかったンです』


「国が滅ぼうが、侍が滅ぼうが、どうでもいいんだよ俺ァ昔っから」
『でも、俺はそれよりも護りたいのがあって』


「今も昔も俺の護るもんは何一つ」
『初めて戦ったときから、そのために戦って』

「変わっちゃいねェェ!!」
『今でも、それを護りたいンです』



ヘリが、落ちた。






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