第三章 第十一話     44/115
 



「てめーはどけっつってんのがわかんねーのか!!」

銀時は万斉と刀を交えていた。
銀時が電車に向かおうとすれば、万斉はその前に立ち塞がって通しはしない。
電車には綱吉が向かったが、彼は怪我をしていたし、この戦場では何が起こるか分からない。一刻も早く駆け付けたかった。

銀時は木刀を大きく横に薙ぎ払う。万斉はそれを飛んで避けるが、そこに着地までの隙が生じた。その隙を見逃さず、銀時は万斉に構わず先に行こうとする。しかし、万斉も甘くない。
銀時の手足に次々と何かが巻き付き、一歩も足を進めることが出来なくなった。

「弦!?」
「無理はせぬがいい。手足がちぎれるでござるぞ」

その細い弦は、万斉の三味線から伸びていた。

「ぬしはまだ仲間が生きていると?たとえあの子供が行ったところで、結果が変わることはない」

銀時が前に進もうとしても、弦は切れることはなく、手足に食い込んでいくばかりだ。しかし、血が出ても、それでも銀時は進もうとする。

「…あの子供も、生きていると疑っていなかった」

万斉はトラックでの綱吉との会話を思い出す。それは、今考えれば五分ほどの短い会話だった。

「仲間の死を否定し、当たり前のように生存を信じる。そこに何の根拠もありはしないのに」

万斉は独り言のように呟く。それは、誰に向けた言葉でもないのは、自分でも分かっていた。

「恐ろしく幼稚な考えだ。あの子供には戦士としての素質も、頭としての資格もない」

万斉は淡々と口にする。剣豪としての冷徹とも言える分析だった。

「目的も、願いも、信念もない、ただの子供に、出来ることなどありはしない」

そう思っていた。異世界から来たと言っても、ただの子供だと。

なのに、僅かな時間の間に聴いた、あの子供の魂の鼓動。鼓動は澄み切っていた。それは、この腐った国では聴いたことがない鼓動だった。
万斉は試してみたかった。戦場に連れて行き、逃げられなければそれまで。逃げられれば、あの子供の魂の鼓動も変化するだろう。戦場での子供の考えなど、すぐに霧散すると思っていた。
そして、トラックから脱出した子供の魂の鼓動は変わっていた。それは、穏やかな音楽から、力強いものへと。その澄んだ鼓動は変わることはなく。

「それなのに、何故あのような鼓動をしているのか」

万斉は、今度ははっきりと銀時に言った。

「それでも、助けに行ったところで無駄でござる。もう遅い。真選組も、あの子供も消える」

銀時は、止まることはない。万斉の言葉は耳に入っているはずだ。しかし、そんなのは銀時には意味のない言葉だった。

「ツナは兎も角、誰があんな連中助けにいきてーかよ」

銀時にとって、万斉の言葉が行かない理由にはならない。

「手足の一本や二本、どうぞくれてやらァ。んだが肉は切れてもこの糸…」

そして、銀時を縛っていた弦は切れた。

「腐れ縁!!切れるもんなら切ってみやがれェェ!!」

銀時は走る。止められていた足を縛るものは、もう何もない。





電車の中では雪崩れ込んできた鬼兵隊との戦いが繰り広げられていた。

「ちっ、どんどん湧いてきやがる!」
「何でィ、疲れたのかィ獄寺。だらしねぇな。体力つけろ」
「おっ、明日から一緒に朝走るか?」
「誰が朝から十キロも走るか野球馬鹿!」
「余裕だなお前等!?」

話している間も手を止めることなく敵を倒し続ける。大量にいた敵も減っていき、ようやく終わりが見えてきた。
しかし、敵は全て倒されることを予測していたのだろうか。



バラバラバラバラ



電車のすぐ横で聞こえるヘリの音。乗っているのは銃を構えた男だった。

「伏せろォォ!!」

土方の叫びで皆一斉に伏せる。しかし、ここには隠れるところもなく、銃弾を遮ってくれる障害物もない。

伊東は前に出て大きく腕を広げた。
障害物がないのなら、自分が障害物になれば良い。そうすれば、彼等は、仲間は助かる。



連射されて、周りの音が聞こえなくなる前。
肩をポン、と叩かれた。そして横から聞こえた子供特有の高めの声。

「お前の覚悟、しかと見た」

伊東の目に映ったのは銃撃ではなく、オレンジの炎だった。






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