第三章 第十話     43/115
 



「僕はついに土方に勝っ…」

意識を取り戻した伊東の左腕は無くなっていた。

そしてヘリからの銃撃。上着が引っかかってどうにかぶら下がっていた体は、その攻撃で簡単に重力に逆らう術を失う。

落ちていく中、思い出すのは自分が歩んできた過去だった。
自分を褒めることがない母。
才能を妬み、交わることはなかった学友。
そして、仕舞いには誕生を疎まれた。
誰も自分を見てくれはしなかった。

手を伸ばす。しかし、誰に?伸ばす相手など、いはしない。


この手を…握ってくれ…


誰にも握られることはないと思っていた手。
しかし、落ちていくはずのその手は、誰かに掴まれた。



ガシィ



掴んだ手はゴツゴツとしていて、掌からは刀を握ってできたタコの感触が伝わってきた。

「こ…近藤!?」

沖田や万事屋の二人、獄寺達が連なり、近藤を支えていた。近藤の手は、しっかりと伊東の手を掴んでいる。

「謀反を起こされるのは大将の罪だ」

自分を裏切り者だと言った伊東に、近藤はそれを遮って口を開く。

友達として、いてほしかった。

その言葉は、伊東の心に染み込んでいく。ゆっくりと、しっかりと。


近藤は伊東を引き上げようとするが、その間も銃撃は止むことはない。

「くそっ!」

山本も獄寺も、支えに回ってしまったので両手が塞がっている。これでは防ぐことも、倒すこともできない。
しかし、その心配はなかった。

「何してやがる!!さっさと逃げやがれェェェ!!」

土方がヘリのプロペラを切断する。
ヘリの高度はどんどんと落ちていき、土方はそのヘリを足場に跳躍した。そして、伸ばされた伊東の手を取る。

「いずれ殺してやる。だから…こんな所で死ぬな」

二人に共通する想いだった。
伊東がほしがっていた絆は、確かに繋がっていた。

「手間掛けさせやがって…」
「ヤバイアル」

遅すぎる和解に、獄寺の顔は思わず緩んでしまった。しかし、それは一番上で支えている神楽の言葉で固まる。

「何でィ、チャイナ。さっさと引き上げろ」
「だから、ヤバイアル」
「何がヤバイのな?」
「電車が落ちるネ」

全員固まる。

デンシャガオチル?

その言葉を理解した瞬間、彼等は叫ぶ。

「おま、それを早く言えェェェェェ!!」

その言葉が合図だったかのように、電車を支えていた結合部分がぽきりと折れた。皆、その瞬間を見てしまった。
捕まるところはない。何故なら捕まるそこも一緒に落ちていくからだ。

「うそぉぉぉぉぉ!?」

一瞬の浮遊感。エレベーターでも感じたことがある、あの嫌な浮遊感だ。すぐに谷底まで落ちてしまうだろう。新八は恐怖で目を瞑る。
しかし、予想していた落下の感覚はいつまで経っても来なかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開ければ、落下などしていない。しかし、自分達がさっきまでいた車両は落ちている。連なったまま、空中で止まっているのだ。
これは一体どういう事だ?

「皆、大丈夫か?」

上から聞こえる声。予想もしていなかったその声に上を向けば、一番先の神楽を新たに支えている者がいる。
オレンジの炎を灯しているのは、捕まったと思われていた人物だった。

「綱吉君!」
「十代目、ご無事でしたか!」
「ツナ!怪我してんぞ!?」

声を掛けていくが、今は皆を引き上げるのが先だろう。綱吉は高度を上げ、まだ無事な電車内に彼等を下ろした。

「無事で良かった…」
「それはこっちのセリフだよ!どうして此処に?」
「鬼兵隊に捕まったンじゃねぇのかィ?」

やっと地面に足を付けることが出来た彼等は、次々と質問を浴びせるが、さて、綱吉も運が良かったとしか答えようがない。
心配していた近藤も無事だったし、土方ももうヘタレてはいないようだ。伊東も初めて会ったときとは眼が違っている。自分が捕まっていた間に何があったのかは気になるが、それを訊いている暇はない。

「彼の出血を止めないと…」

綱吉がこの中で一番の負傷者である伊東の治療を口にするが、それは出来なかった。



電車の中に大量の敵が雪崩れ込んできた。





前へ 次へ

戻る

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -