第一章 第一話     2/115
 

目を開けたらそこは見知らぬ公園だった。

(あれ?ここどこ?)

日本人には珍しい茶髪に、髪と同色の瞳。中学生男子としては少し小柄な身体――沢田綱吉は呆然と公園の芝生に寝転がっていた。

自分は自称右腕の少年と友達の野球少年と一緒に、夕日を背にして帰っていたはずだ。今日の数学の小テストの決して良くない出来の話、体育での野球少年の活躍を話ながらの帰路。あの辛い未来の戦いから帰ってきて、ようやく取り戻した日常だ。しかし、あの二人と別れた記憶も、家にたどり着いた記憶もない。たしか、何かの気配を感じて空を見あげた気はするが・・・。

綱吉はそこまで考えて、自分がまだ芝生に横になっていることに気が付いた。いつまでも寝ているわけにはいかない。上半身を起こす。周りを見る。そこでまた気が付く。
公園で遊んでいる子ども達が皆、和服だ。

(今の時代、和服?)

綱吉は公園から見える街並みを見る。遠くに見える大きなタワーに、これまた和風の家達。明らかに自分の住む並盛とは違う。自分はどうやら遠いところに来てしまったらしい。

(どうしよう・・・帰れるのかな・・・)

綱吉は項垂れた。それこそ死ぬ気の思いで現代に帰れたと思ったら、また厄介事になっているようだ。家庭教師である赤ん坊が来てから事件続きのような気がするのは自分だけだろうか。

「ニャー」

すぐ横から声がした。三毛猫がすぐ側まで来ていた。

(猫にまで慰められるのか・・・)

猫を見ると自称右腕の少年の『瓜』を思い出す。あの時一緒にいた二人も近くに来ているのだろうか。その方が心強いが、厄介事には巻き込まれていて欲しくない。

(獄寺君・・・山本・・・大丈夫だよね?)

「ニャー」

猫が近づいてくる。遊んで欲しいのだろうか。綱吉は猫を抱き上げた。

「随分人に慣れてるね。飼い猫?」

綱吉は猫を撫でる。ニャーと気持ちよさそうに鳴いた。

「お前には悩みなんて無いんだろうなぁ。俺は今家もないんだぞ・・・」

日が沈むまでに並盛に帰るなり、宿を見つけるなり、何とかしなければ自分は野宿決定だ。カバンの中の財布には小銭しか入っていない。早期解決が望ましいが・・・。

「・・・手掛かりもないよ・・・リボーンなんかいるわけがないし・・・こういうときどうするんだろう・・・」

早くも諦めモードの綱吉。未来の体験を経て、少しは逞しくなったが、こんな時はどうしたらいいかなど分からない。猫をなで続けた。すると遠くから声が聞こえた。

「そこの茶髪ぅぅぅぅ!!その猫離すなアルゥゥゥゥゥゥ!!!」

遠くからあるものに乗って駆けてくる少女。綱吉はその乗り物を見て思わず叫んだ。

「犬でかぁぁぁぁぁぁ!!」

明らかに少女よりもでかい白い犬。それがハイスピードでこちらに向かって駆けてくる。
綱吉は思わず猫を抱えて逃げ出した。

「あっ、待つネ!!逃げるんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
「逃げるわ!普通に考えて俺とこの子引かれるでしょうが!!」
「それじゃあ今止まるアル!止まったらお前も止まれよ!止まらなかったらお前撃つからな!!ぜってぇ止まれよ!!定春!止まるネ!」

少女と犬は止まった。というか急ブレーキだ。土埃がこれでもかと起つ。
綱吉も止まる。あのまま走ってもあの犬にどうせ追いつかれるだろうし、少女は止まったのだ。引かれる心配はもうないだろう。

少女が犬から降りて近づいてきた。

(・・・チャイナ服?)

和服の次はチャイナ服か。中国人かとも思ったが、さっき叫んでいたのは流暢な日本語だ。『アル』とか付けていたが。リボーンがいつもしているコスプレと同じ類だろうか?

綱吉が失礼なことを考えているとは知らないであろう少女は、一枚の写真を取りだした。

「後藤さん家のゴロウ。やっと見つけたネ」

綱吉が抱えている猫の写真だった。どうやらこの猫を探していたらしい。

「これで久しぶりにちゃんとしたご飯が食べられるアル。小僧、その猫寄越すネ。飼い主が探しているアル」
「あ、はい」

自分とたいして歳の変わらない子供に小僧と言われても怒らない。というかいまいち怒れない綱吉。正直あまり歳変わらないじゃないかとも思ったが、口には出さなかった。
綱吉は少女に猫を渡そうとする。しかし猫はするりとその手を抜け、綱吉の後ろに隠れてしまった。
少女は猫を受け取ろうとした手をそのままに静止している。しかし、数秒後、ドスの効いた声で呟いた。

「・・・このクソ猫・・・」
「ヒィィィィィ!」
綱吉は猫と少女の間に挟まれてしまった。

「こちとら二日もお前を捜してたんだぞ・・・もううちは塩とかつおぶししかないのに・・・手間駆けさせてんじゃぁ・・・」
「神楽ちゃぁぁぁぁん!標準語になってるよぉぉぉぉ!!キャラ忘れてるぅぅぅぅ!」

叫び声を上げながらメガネの少年が公園の入り口からダッシュで駆けてきた。どうやらこの少女の知り合いらしい。

「新八。遅かったアルナ。猫見つかったネ」
「あっ、戻った。うん。よかったね。でも、普通の人が恐がるようなことしてないよね?」
「してないアル」
「・・・なんか公園の中に車が急ブレーキ掛けたような跡があるんだけど。定春で猛烈ダッシュした?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・してないアル」
「しただろぉぉぉぉ!何だ今の間ぁぁぁぁ!あぁ、ホントすいません!!ホントすいません!!!」




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