第三章 第九話     42/115
 




「わっ、と……痛っ!どうなってんの!?」

綱吉は今だトラックの中にいた。
しかし、先ほどからトラックの揺れが激しい。外からは爆音が聞こえるし、何かに捕まろうと思っても、倒れてくる荷物から逃げるので精一杯だ。
手錠がなければもっとうまく避けることも出来るかもしれない。しかし、万斉との会話が終わってから、彼自身はトラックから下りてしまい、残っている運転手はどれほど呼びかけても無視をする。当たり前だが、彼等には手錠を外す気はないようだ。

「うわっ!」

顔の目と鼻の先にどすんと荷物が落ちてくる。このままではいけない。いつか、本当に上に落ちてくる。その場合、ただでは済まない。
微かに聞こえてくる外での声からするに、戦っている一方は真選組だ。
と言うことは、暗殺されようとしている近藤、真選組に所属する沖田、そして獄寺や山本がいるかもしれない。
助けに行かなければ。せめてこの手錠を外したい。
手袋と死ぬ気丸があれば、その両方を叶えることが出来るが、その場所も分からない。

「どうすれば…って…うわぁぁぁ!」

大きく爆音がしたと思ったら、トラックが大きくぐらりと揺れる。そしてその揺れは一方に動き続ける。

倒れている。

そう思った瞬間には、強い衝撃と共にトラックが横転した。今までと比にならないほど荷物は動き、綱吉も衝撃に逆らうことが出来ない。

揺れは以後収まったようだが、外から聞こえてくる戦いの音は止むことはない。
今まで薄暗く点いていたライトも、ちかちかとしていて、いつ消えてもおかしくない。
綱吉は横転の時あちこちと体をぶつけ、もはや何処が一番痛いのかも分からなくなってしまった。
立ち上がろうとすると身を起こせば腕は痛いし、頭を触れば血も出ていた。周りを見れば荷物が散らばって中の物が出ており、その中に割れたガラスのような物があったので、それで切ってしまったのだろう。

「ここから…出ないと…」

綱吉は痛む足を我慢して立ち上がる。
そして歩くのに邪魔な荷物を退けると、意外な物が見つかった。

「嘘…」

それは手袋の片割れだった。それを拾い、慌てて周りを探す。
するともう片方の手袋と共に、死ぬ気丸も見付けることが出来た。
どうやら多くの荷物の中に、一緒に入れられていたらしい。運が良かった。もし見付からなければ、自分に出来ることなど微々たるものだった。


綱吉は迷うことなく死ぬ気丸を口に含んだ。





「たとえるなら、酔っ払いの鼻歌でござる」

銀時は万斉と対峙していた。
銀時はすぐに彼が高杉の所にいた男だと気付く。そして、高杉は鬼兵隊と手を組んだらしい。
と言うことは……。

「てめーら、ツナを何処にやりやがった」

銀時は万斉を睨む。万斉は意外そうに答える。

「何故お主がそれを知っている…訊くまでもないか。伊東が漏らしたか」
「そんなこたぁどうだって良い。何でツナを狙う」
「何、大した理由はない。彼等を呼び出したのは春雨だと言うのでな。連れて行けば信用を買えよう。それに…」

万斉は何かを言いかけるが、それ以上は口を閉ざした。銀時は訝るが、今はそのようなことを訊いている暇はない。

「あの伊東、高杉の息のかかったモンのようだな」

この戦いを終わらせなければ、綱吉を捜す余裕さえない。銀時は木刀を強く握る。

「全て砕け散った後だ」

万斉がそう宣言した途端、銀時の後ろの方角で大きな爆発がした。振り返れば、仲間が乗っている電車が、橋を渡る所で爆発に巻き込まれている。

「眠るがいい伊東。真選組もろとも」

それは鬼兵隊が仕掛けた爆弾だった。橋が崩れたことで、電車はぶら下がる形になっている。あのような不安定な状態がいつまで保つのか分かったものではない。

「てめぇ…」

銀時は再び万斉に視線を戻す。そして何かを言おうとするが、それを遮る音があった。



ドオォォォン!



横倒しになっていたトラックから起こる爆発。その爆発で燃え上がるのは、見覚えがあるオレンジの炎だった。

「ツナ!」

この戦場の中でもトラックに閉じこめられていたのだろう綱吉は、擦り傷や切り傷が所彼処に見られた。

「銀時、何故ここに」
「んなことはどうでも良い!今は電車だ!」

綱吉は銀時の言葉で煙が上がっている方向を見る。そこには今にも落下していきそうな電車があった。
状況を察したのだろう、綱吉はすぐにグローブに炎を灯し、猛スピードで飛んでいく。

「ほう、あれが言っていた不思議な力か」
「んな感心している場合かよ」

飛んでいく綱吉を目で追っている万斉に、銀時は顔を向ける。

「てめぇ、最初からツナを逃がす気でいたのか?」

でなければ、綱吉をここまで連れてくる理由が見当たらない。もし本当に彼を連れて行きたいと思うのなら、このような戦場など気にせず、そのまま安全な道を使えばいい。

「何、子供の魂の鼓動というのも変わり易いでござる。もし逃げられなければ、その程度だったと言うこと」

つまり、どちらでも良かったのか。意味の分からない奴だ。
銀時は木刀を構えて万斉へ向けた。

「俺も行かせてもらうぜ」

万斉も刀を構えた。






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