第三章 第七話     40/115
 



「くそっ、総悟…山本君…」
「おいこら、しけた面してねぇんじゃぞ」

近藤は二人が残された車両が見える扉から動かない。
真選組の援軍が到着した。何故だかは分からないが、万事屋が土方も連れてきてたくれた。まだ妖刀の呪いが解けていない様子や、綱吉の姿が見えないことに不安が過ぎるが、そのことに今、一人で頭を捻っても仕方がない。

「どうして…どうしてこんな事に…何のために…」
「…分からねぇのか」

獄寺の言葉に、近藤は彼に視線を向ける。その表情は、些か怒っているようにも見えた。

「自分が仕えているボスを護るために戦う。それが理由の何がいけねぇ」
「獄寺君…」
「何のために戦っているかは、あんただって分かってンだろうが」
「……」
「たとえあんたの首を差し出してこの戦いが終わったとしても、これからにあんたがいなくちゃ、意味がねぇだろうが」

近藤は目に涙を溜め、拳を強く握る。

「だが…仲間同士で殺り合う何て…」

近藤の胸の内にある想いはそれだった。仲間と仲間が戦っている。それも、自分の首を賭けて。
獄寺は苛立たしげに舌打ちをする。付き合いが短い自分が近藤にどれほど言っても、彼の心にはなかなか響きはしない。
ならば、付き合いが長い悪友に言ってもらおう。

「おい、あれ見ろ」
「あいつらなんで…」

近藤の視線は、万事屋が乗っているパトカーで止まっている。いや、正確にはパトカーに乗っている人物にだ。
そこには、近藤が処断した土方がいた。

「なんで…お前が…」

近藤はぽろぽろと涙を零した。

「トシぃぃぃぃぃぃ!!なんせ来やがったァバカヤロォぉぉぉぉ!!」

そこで終われば感動の場面だっただろう。しかし、万事屋には空気を読む気は全くない。
銀時がバズーカの銃口をこちらに向ける。バズーカを向けたからにはやることは一つ。
そのまま発射した。

「え?」

扉は吹き飛ばされ、付近にいた近藤もそれに巻き込まれる。しかも後ろに飛ばされた近藤は通路の角に頭までぶつけてしまった。

「近藤さん無事ですかァ!!」
「ダメネいないアル。ゴリラの死体が一体転がっているだけネ」

この戦場の中であのような掛け合いが出来るとは、彼等もなかなかの大物だ。
だが、獄寺には最初に言いたいことがあった。

「てめぇら、コイツはともかく俺に当たったらどうすんだ!」
「そこぉぉぉ!?てか、俺は良いのかよ!」

近藤は何事もなかったように立ち上がる。かなり強くぶつかっていたはずだが、打たれ強い奴だ。

「ありえなくね!?お前等が俺達の肩を…」
「遺言でなコイツの」
「遺言!?」

銀時は語る。土方が妖刀に取り憑かれてしまったことを。もう、土方の魂は食われてしまったことを。それは、獄寺が予想していたよりも悪い状態だった。

「マジかよ…」
「そ…そんな状態で…トシがお前等に何を頼んだんだ」
「真選組護ってくれってよ」

銀時はあっさりと言うが、その言葉は近藤には衝撃的だったらしい。銀時が白地らしく面倒だから連れてきたと言っても、そのまま黙っていた。
そして、彼の下した決断は悲しいものだった。

「トシ連れてこのまま逃げてくれ」

悪友であり、戦友であり、親友である者の声は、近藤には届かないのだろうか。
プライドの高い土方が頭を下げてでも願ったことは、そんなことではないだろう。
獄寺はこの分からず屋を殴ってやろうかと思った。しかし、それは必要のないことだ。
『彼』の言葉は、終わっていない。

「あーあー、ヤマトの諸君」

パトカーの無線を使い、彼は全ての車両に演説する。どこか気の抜けたその演説は、しかし、戦いの意志を示していた。
演説を聴いている一人の隊士が訊く。お前は誰だと。
答えは決まっていた。

「真選組副長土方十四郎ナリ!!」

土方は乱暴に受話器を元の位置に戻す。

「…土方さ…」
「そこは最後まで決めろよ」

何だナリって。
しかし、獄寺はそれ以上言わなかった。口元には自然と笑みが浮かんでいた。

「近藤氏。僕らは君に命を預ける。その代わりに、君に課せられた義務がある」

土方は煙草を点ける。ヘタレの彼は、煙草を吸ったりしない。獄寺は、近藤の後ろから副長の復活を見ていた。

どんなに仲間が死んでも、あんたは死ぬな。それは、残酷な言葉にも聞こえる。しかし、それは真選組の総意でもある。願いでもある。

「あんたは真選組の魂だ。俺達はそれを護る剣なんだよ」

獄寺はそれを見ていた。
自分も、ボスの剣になれるだろうか。誰よりも優しい彼を護ることが出来る、強い剣に。

後ろから近づいてくるバイクがある。それは先ほど伊東を乗せたバイクだった。

「剣ならここにあるぜ。よく斬れる奴がよォ」

土方は妖刀を抜こうとする。しかし、呪いのためか、それはなかなか抜けない。再びヘタレになりかける始末だ。

土方はパトカーの後ろの窓を素手で割る。力づくで妖刀を抜こうとしながらも、土方は銀時を見ずに叫んだ。

「ありがとよォォォォォ!!」

それは、頭を下げる並に彼には考えられない言葉だった。それも、仲が最悪の万事屋にだ。
銀時はトッシーか、と言うが、そんなはずはない。
彼は、ゆっくりと妖刀を抜いた。


「俺は真選組副長土方十四郎だァァァァァ!!」



鬼の副長復活の瞬間だ。






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