第三章 第六話     39/115
 




自分達しか仲間がいない電車の中。
爆発に乗じて近藤は敵の輪から助け出せた。しかし、状況はそれ以外好転しない。電車は走り続け、その中でしか逃げることは出来ない。

「ちっ…爆破させれば電車を止めると思ったが…。あいつ、それくらいの頭は付いてンだな」
「アレでも一応参謀でしたからねィ」

ひとまずは敵がいない車両に逃げることが出来たが、それもいつまで保つか分からない。何か手を打たなければ体力を消費するばかりだ。

「すまねェ三人とも、こんな事になったのは全て俺一人のせいだ」

近藤は三人に背を向け、悔しそうに言う。

「俺ァお前等に、トシに…なんてわびればいいんだ」

沖田は何も言わずに、車両の唯一の扉を閉める。外にはまだ彼自身と山本が残っているのに、鍵まで掛けてしまった。
獄寺はそれを予想していたのだろう、慌てることなく近藤と一緒にその様子を中から見ていた。

「大将の首とられたら戦は負けだ。ここは引き下がっておくんなせェ」
「それじゃ、そっちは頼んだぜ、獄寺」
「ちっ…暴れる役は譲ってやる」
「ふざけるな、開けろ!!」

近藤は扉を叩いて開けるように言うが、彼等がそれを聞き入れる訳がない。そして、素手で扉を破ることも出来ない。分かっていても、彼等を止める言葉を叫ばずにはいられなかった。
山本は、一度近藤と獄寺にニカッと笑ってから、敵がいる車両へと移る。

「山本君!待つんだ!獄寺君も止めて!」
「どっちも強いと言っても、あの人数だ。どちらか一人よりも、二人で足止めした方が良いだろうが」

獄寺は彼等を止める気がないようだ。沖田が車両を切り離そうとしているのを、黙って見ている。

「近藤さん、だから何度も言ったでしょ」

沖田は車両を切り離し、山本がいる車両へと飛び移る。

「そんなアンタだからこそ、命張って護る甲斐があるのさァ」

沖田には、近藤を護るための戦いに迷いはなかった。
彼は近藤の声にも振り返ることはなかった。そのまま敵の車両の中に入る。山本も、二人に手を振ってからすぐに中に入った。





中では当たり前とも言うべきか、すでに敵は刀を鞘から抜き、全員戦闘態勢に入っていた。

伊東は彼等が死ぬ覚悟で残ったと思っているようだが、それは間違いだ。勿論彼等は死ぬ気はない。

「近藤は僕の計画通り死ぬ」

伊東がそう言ったのと同じくして、外から重低音が聞こえてくる。
外を見ると、バイクに乗った男を先頭に多くの車が前方の近藤達が乗っている車両を目指して走っている。

「………鬼兵隊か」
「うわ、凄い数なのな」

山本は驚いたように口を開けているが、沖田は援軍を予想していたのだろう。余裕な態度を崩さない。

「ワリーね伊東さん。実は俺も一人じゃねェ。そろそろ…」

鬼兵隊の集団を狙ったバズーカの砲撃。それは、伊東の援軍ではない、こちらの、真選組の援軍の到着の証だった。

「バカな…あれは」
「御用改めであるぅぅぅ!!てめーらァァァ神妙にお縄につきやがれ!!」
「ひっ…土方ァァァァァ!!」

万事屋が運転している、壊れかけのパトカーの上に乗っている人物。それは紛れもなく土方十四郎だった。

「土方さん!良かった、妖刀の呪いは解け…」

山本が嬉しそうに顔をほころばせるが、喜んだ瞬間、土方は木の枝に頭をぶつけて痛そうにパトカーにへばり付いてしまった。銀時が怒って何か怒鳴っているが、遠く離れているため聞き取ることは出来ない。
山本でも分かる。呪いが解けていない事は明白だった。

「奴等潰すには軍隊一個あっても足らねーぜ」

土方を乗せる万事屋は、バズーカを撃ちながら走り、鬼兵隊の隊列を崩して進んでいく。

「流石銀さん達…って、あれ?」
「どうしたんでィ山本。」
「万事屋の皆がいるのに…ツナがいねぇ」
「あれま。ホントでィ。あのお人好しだけいねぇや」

綱吉の性格を考えれば、たとえ止めても彼等と一緒にここまで来そうだが、姿が見えない。山本は言い知れぬ不安を感じた。

「それはそうだろう」

伊東は当然とでも言うように口を開く。

「彼が、あそこにいるはずがない」
「あんた…何知ってるんだ?」

伊東は何かを知っている。山本は彼を睨む。

「君達は、自分達が調べられていたのは異世界から来たためだと考えた。なら、どうして自分達だけが調べられていると思う?」

伊東は眼鏡を押さえて嘲るように笑う。

「まだ君達以外にも異世界から来た者がいるのに」
「あんた等、ツナに何した!」

山本は伊東を問い質そうと足を一歩出したが、沖田が手でそれを止めた。

「沖田さん!」
「落ち着け山本。後先考えず無闇に突っ込むな」

沖田はいつもの彼からは想像できないほど鋭い眼光で山本を律する。

「何、少しばかりご同行を願っただけだよ。丁度真選組に来ていてね」
「ツナが…」
「大方、土方にでも何か聞いてか、知らせにでも来たのか…全く、愚かな子供…」
「ツナは愚か何かじゃないぜ」

山本は伊東の言葉を遮って断言する。

「ツナは凄い奴だぜ!」

それは山本にとって揺るぎ得ない事実だった。
沖田はそれを聞いて満足そうに微笑んだ。彼等には、伊東には分からないだろう信頼関係があった。
沖田は刀に手を掛ける。一瞬浮かべた笑みも消えた。それは一番隊隊長の顔だった。

「てめーら全員俺が粛清する」

沖田が剣を抜いて言った言葉にも、伊東は自信ありげの様子だ。彼にとって、数の差という有利は明らかだった。

「奴を粛清しろ。僕は近藤を追う」

伊東は後ろの扉を開けて、待機していた男のバイクに乗って行ってしまう。

自分達のリーダーである伊東が下した命令通り、配下の男達は反乱分子を排除しようと躙り寄ってくる。
しかし、彼等も元隊士。隊長である沖田の実力は知っている。迂闊に斬り掛かることは出来ない。

「真選組一番隊隊長として…てめーらに最後の教えを授けてやらァ」

沖田は言う。呼吸を合わせろと。それは極限状態の彼等の耳にすっと入っていく。
隊士達は全員の息が合った途端、全員で一斉に斬り掛かる。

「そして…」

しかし、それは沖田には無意味だった。

「死んじまいなァ」

斬り掛かってきた隊士は沖田の一刀で飛ばされた。後ろに控えていた隊士はそれを見て顔を青ざめる。
しかし、逃げるわけにはいかない。沖田に逃げ場が無いように、自分達にも逃げ場は無いのだから。

「うぉぉぉぉぉ!!」

数名の隊士達が再び斬り掛かる。しかし、今度は沖田が動く必要はなかった。

「時雨蒼燕流攻式八の型」

山本が沖田の前に出る。常に持っていた竹刀は、すでに刀へと変化していた。

「篠突く雨」

懐に入られたと気付いた隊士達は、次の瞬間には鋭い一刀で突き上げられていた。

「すまねぇな。あまりゆっくり出来なくなっちまった。ツナの居場所聞かないといけねぇんだ」
「俺も早く近藤さんの所に行きたいんでねィ」

二人は背中合わせで敵と対峙する。

「「手加減無しだ」」

負ける気がしなかった。







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