第三章 第五話     38/115
 






「ん…ふごっ!」」

綱吉は目を覚ました途端頭をぶつけた。その痛みで一気に意識が覚醒する。
定期的に継続している揺れ。どうやら移動しているみたいだ。
頭上にあるライトのお陰で、薄暗くとも周りの様子が見える。いくらか荷物が積んであり、ある程度の広さもある。また、移動していることからもトラックのようだ。
立ち上がろうとすると、手の違和感に気付く。手首を見れば手錠を掛けられていた。

「…デジャブ?」

未来でもスパナに捕まり、手錠で拘束された。まさかこの短時間で再び同じような体験をするとは。嬉しくない。

「起きたでござるか」
「うわぁぁぁ!」

いきなり前の小窓の奥から声がした。遮っていたカーテンが開き、声の主の顔が見える。
黒髪に、サングラスとヘッドホンの男。その男の顔には見覚えはない。しかし、声には聞き覚えがあった。
綱吉を気絶させた男だ。

「こ、ここ何処ですか?」
「ふむ。落ち着いているでござるな。捕まるのは初めてではないのか?」

図星を付かれた。だが、言いたくはない。綱吉は目線を泳がせた。しかし、それで誤魔化せるわけではない。男はため息をついた。

「お主…本当に異世界から来たのでござるか?」
「え、あ、はい」

思わず頷いてしまったが、この人は敵だ。まったく状況が掴めていないが、山崎さんを襲った奴の仲間なのだ。味方でないのは間違いない。

「貴方達は何をしようとしてるんですか?」
「それを拙者が素直に言うと?」
「うっ…」

確かに味方ではないのだ。言わない理由があっても、彼が正直に言う義務も、理由もない。
だが、今状況が分からないのは不味い。どうにか情報を聞き出さなければ。頭が悪いと自覚しているが、必死で策を巡らせる。
しかし、全く思い浮かばない。スパナに捕まったときはすぐにリボーンが出てきたし、彼は自分に協力的だった。今思えば、あれはかなり幸運だったのだ。
今の状況は、あの時よりも悪いのかもしれない。そう思うと、焦りが出てくる。

綱吉のその様子を見て、男はまたため息をついた。

「…真選組を潰す」
「えっ!?」
「拙者達の目的でござるよ」

万斉様、と男の隣から戸惑う声がした。男は構わぬ、と言い、話を続ける。

「幹部の一人である伊東が近藤を裏切り、敵である攘夷志士の我らに組みする。真選組は、裏切りで潰れる」
「そんな…」

土方が護ってくれと言っていたのはこの事からなのか。
近藤が殺されてしまう。それは避けなければ!

「沢田綱吉…でござったな」
「はい……」

綱吉は警戒しながらも、気付かれないようにポケットを探る。一応入れておいた手袋と死ぬ気丸を出すためだ。
しかし、中には何も入っていない。盗られたらしい。これでは逃げ出すどころか、手錠を外すことも出来ない。

「お主は、元の世界では組織の頭だと聞いた」
「…えっと、ボス…候補です」

マフィアのボスになる気はないが、ここでただ否定したら会話が終わるかもしれない。少しでも会話をして、情報を手に入れたかった。

「お主の世界は、平和か?」
「…この世界と、大した違いはありません」

それは以前から思っていた事だった。
天人はいない。民間人が宇宙に行けたりもしない。
しかし、それでも綱吉は違いを感じなかった。平和な所もあれば、争いもある。人は怒り、泣き、喜び、笑う。

「この世界の人と、俺等は、変わりません」
「……そうか」

綱吉には、男が残念そうにしているように見えた。

「貴方は…この世界が嫌い何ですか」
「この国が、でござるよ」
「国が?」
「この国は腐っておる」

男は言う。その言葉に嘘は感じられなかった。

「だから…潰すンですか?」
「まずは手始めに、でござるな」

綱吉は江戸の街を思い出す。この世界に来てから、まだ一ヶ月も経っていない。だが、そこに暮らしている人は暖かかった。全員がそうではないのは分かっているが、優しい人は沢山いた。
それを壊して欲しくはなかった。

「そんな事はさせない」
「お主に何が出来る」
「…それでも、護りたいものがある」

手錠を掛けられ、武器もない。ここが何処かも分からない。口先だけだと言われても良い。
今は、その口先だけでも言いたかった。

「…意外でござったな。仲間の死を聞いていても、それほどの口が利けるとは」
「山崎さんは死んでいない」
「その自信の根拠は」
「ない」

根拠はなかった。だが、たとえ死んだと言われても信じはしない。自分が見たのは血痕だけだ。逃げ切っているかもしれないではないか。

「……」

男は黙った。あまりの綱吉の根拠のない断言に呆れているのかもしれない。二人の間に沈黙が落ちた。

「お主は…」

しかし、その沈黙は長くはなかった。男は呟くように言う。

「お主は、組織の頭には向いていない」
「……」

別になる気はないのだから構わない。
しかし、ボス候補だと自分で言ったばかりだ。ここではっきりとそう言うのは、些か不味い気がする。

「身動きが取れないのに、敵を挑発するような言葉を言う。仲間の生存を根拠もなく信じる。綺麗事ばかりを言う。頭として以前に、戦士に向いていない」

ずかずかと遠慮無く言う。甘い男だと骸にも言われた事がある。この男が言うことは間違っていないのだと思う。

「お主は、仲間に裏切られて死ぬぞ」

男の言葉は、やけに大きく綱吉の耳に響いた。

最初は骸の顔が思い浮かんだ。
彼は、正確には味方ではない。利害の一致で助けてくれているだけだと本人は言っている。チャンスがあったら、迷うことなく体を乗っ取るだろう。
それでも、彼は仲間を想う人だ。

次にザンザスの顔が思い浮かんだ。
九代目を騙し、クーデターを企てた。ボスの座に付こうと、モスカの動力源に九代目を利用すらした。
もしかしたら、まだボスになろうと考えているのかもしれない。
それでも、誰よりも最強のボンゴレを望んでいる。

最後に思い浮かんだのは未来での出来事。
正一君がメローネ基地でボンゴレに付いてくれた。始めはただ驚いた。
最後の森での戦い。白蘭が味方を巻き込むと分かっていながらも、ゴーストを出陣させた。綱吉が倒さなければ、桔梗も死んでいただろう。
それでも、正一君は未来を取り戻そうとし、白蘭だって元は普通の青年だった。

「…裏切られても、信じないと思います…」

皆の事が大好きだから、信じているから。

「…裏切られたら、悲しいです…」

泣くどころでは済まないだろう。

「それでも…少なくとも……」


綱吉の言葉を、男は黙って聞いていた。






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