第三章 第三話     36/115
 






「俺、真選組に行ってみます」

綱吉は迷うことなく言った。
万事屋の三人には止められた。しかし、様子を見てくるだけだからと言って、みんなと別れた。

真選組で何か起きている。それは明らかだ。
見過ごせない。見過ごしたくはない。異世界の出来事だからと、目を背けたくはない。

綱吉は、お人好しだった。

「でも、どうしよう」

真選組で何が起きているのかは分からない。無闇に突っ込んでいくのは無謀だろう。
山本や獄寺、近藤や沖田なら何か知っているだろうか。せめて山崎を見付けたい。
真選組に着いたら彼らを見付けよう。そう思っていたら、前方に意外な集団が見えた。

「あれ、真選組?」

眼鏡の私服の男に率いられ、真選組の隊服に身を包んだ男達が林から出てきた。
彼らの顔は引き締まっており、和やかな雰囲気とは懸け離れている。やはり何かあったのだ。

「おや、君は…」
「こ、こんにちは…」

先頭に立っている眼鏡の男が綱吉に気が付いた。同時に男の後ろにいた隊士も綱吉に目を向ける。
眼鏡の男のすぐ後ろにいた隊士が、綱吉を見て何かに気付いたように目を少し開く。彼はすぐに先頭の男に耳打ちする。

「ほう…彼が…」

男はそう言い、意外そうに綱吉を見る。
何だろうか?自分は眼鏡の男とも、耳打ちした男とも面識はないと思うが…。

「君が沢田綱吉君だね?」
「え?は、はい」

突然自分の名前を当てられてしまった。綱吉が覚えていないだけで、どこかで会っているのだろうか?

「監察から聞いているよ。異世界から来たらしいじゃないか」
「監察?山崎さんですか?」
「山崎…山崎君か…ふふふ」

男は何が面白かったのだろうか、小さく笑い出した。

「彼や土方君、沖田君は意図的に僕に君らの存在を言っていないよ。まあ、近藤はただ忘れているだけだろうが…」

男は笑うのを止め、綱吉に優しげに手を伸ばした。

「僕は真選組の参謀、伊東鴨太郎。彼等に会いに来たのなら、連れて行ってあげよう」

いつもの綱吉なら、礼を言って彼に付いていったかもしれない。彼等は真選組のようだし、何よりも今は時間が惜しい。
だが、何か違和感があった。彼は、彼等は綱吉が知っている他の真選組の人達とは何か違う気がした。

「……」
「おや?どうしたのだい?」

綱吉はその場から動けない。彼等に付いていってはいけない気がする。自分の直感が告げていた。

そして、綱吉は気が付いた。

「…それ…!?」
「ん?あぁ…しまったな」

男達の足下には、血痕が残っていた。それも、林の中へと続いている。そして、男達は林から出てきている。

「まったく…山崎君の前進しようとする行動がこんなところに出ているのか」
「山崎さん…山崎さんに何をした!」

綱吉は叫んだ。消すように血を踏みつけている男に向かって。全ての意識を男に向けた。
それがいけなかったのだろうか。

「伊東殿。この子供は?」

後ろから首元に刀を向けられた。知らない声だった。
後ろに誰かが迫っている事に気付けなかった。他にも仲間がいる可能性を失念していた。

「万斉殿。始末は終わりましたかな」
「この子供は?」
「以前言った、異世界から来た三人の内の一人です」

伊東は眼鏡を直しながら言う。後ろで綱吉に刀を向けている男は驚いたように声を上げた。

「ただの子供に見えるが…」
「何でも不思議な力を持っているらしい」
「なるほど」

男の刀が近づいた様な気がした。もう少しで刃の冷たさが感じられるだろう。綱吉は身動きがとれなかった。

「では、捕らえておく事にしよう」
「え!?ちょっとま…」

綱吉の首に衝撃が走り、そのまま気絶してしまった。





綱吉はどさりと倒れる。
手刀で気絶させたが、随分とあっさり捕らえることが出来た。本当にこれが、自分達の知らない異世界から来た人間なのだろうか?ただの子供にしか思えない。

「晋助が気に掛けるほどか…?」
「いかがした、万斉殿」
「いや、何でもない」

伊東は興味が失せた様に去っていく。これから近藤暗殺のための準備でもするのだろう。
慎重な男だ。土方派に露見するようなヘマはしないはずだ。

列車に一人、周りは敵しかいない。近藤は死ぬ。
そして、裏切る伊東も。

それは、腐りきったこの国を表しているかのように思った。
表面上だろうが国を護る者を、仲間が裏切り殺す。そして、その者も殺される。

「この国は…腐っているでござる」

足下で倒れている子供を見る。
ふと、意味のないことを考えてしまった。

この子供の世界はどうなのだろうか。






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