第三章 第二話     35/115
 






「ヤバイ。始まってしまったアル」

神楽はテレビの前で何やら機械を弄っている。どうやらうまくいっていないようだ。しかし、綱吉も機械には強くないので、手伝うことは出来ない。

「神楽ちゃん、何やってるの?」
「新八の勇姿を録画してやらないと」

神楽はそう言うが、何のことだろうか?
そう思ったら、テレビに見慣れている顔が映った。

「オタクが全て引きこもりやニートの予備軍だというその考え方は改めてほしいですね」
「何やってんのアイツ…」
「新八君がテレビに出てますよ!?え、何で!?」

新八がいつもとは違う姿でテレビに出ている。前に一度見せてもらったことがある、彼の戦闘服だと言っていた。
綱吉は新聞の番組欄を確認する。『オタクサミット朝まで生討論』、これだ。
新八がアイドルの寺門通の親衛隊隊長だという話は聞いていたが、テレビに出るほどとは。流石とでも言った方が良いのだろうか。
知り合いが出演しているというのは、まるで自分のことのように嬉しい物だ。たとえそれがオタクとしてでも。
その勇姿をもっと見ておこうと視線をテレビに戻す。どうやら討論は白熱しているらしい。

「そういう分不相応な考えそのものが……」
「7番腹立つアルナ〜新八いけェ!!」
「あっ、乱闘になった!」

大変だ。生放送だから編集されていない映像がそのまま流れている。あのテレビに映っていた人数で乱闘などしたら、怪我人が出ることは必至だ。

「できたアルトロトロアル〜」
「録画はァ!?」

あぁ、この映像は録画されていないのか。可哀想に新八君。見たかっただろうに。
テレビにはメインで討論していた二人をアップで映されている。もうじき場面が暫くお待ち下さいに切り替わるだろうか。
せめて自分達だけでもテレビに映る彼を見てあげよう。しかし、新八が殴り合っている男に目がいく。
最初に気付いたのは銀時だった。

「んアレ。コイツ。どっかで見た顔だな…」
「え、嘘。何で?」

普通なら考えられない人が映っていた。





「望みは何かね?」
「勿論。副長の座でさァ」

沖田は伊東の部屋から出て行く。外の廊下には二人の男が立っていた。

「何でィ、お前ら。盗み聞きかィ?」
「沖田さん。いいのか?」
「……」

立っていたのは獄寺と山本だった。
山本はいつもの様な曇りの無い笑顔ではないし、獄寺も普段沖田に見せている怒鳴る顔とは違う。
二人は沖田に対して怒りは抱いていなかった。その顔には怒りではなく、不安が現れていた。

「土方さんがああなったのは妖刀のせい何だろ?なのに…」
「弱み見せる奴が悪いンでェ」
「…おい」

獄寺が気に食わなそうに不満げな声を上げる。

「彼奴は副長何て座が欲しいなんて思ってねぇんだろ。もっとヤバイ事考えているンじゃ…」
「獄寺。お前、頭は良いが馬鹿だな」
「あぁ!?」

折角心配してやったのに、いきなりけなされて黙っている獄寺ではない。
獄寺は沖田に掴みかかろうとするが、山本に後ろから羽交い締めにされてそれは不可能だった。

「それよりも、自分の心配しなせィ」

沖田は二人の横を通って行く。

「…どういう意味だ?」
「伊東はどうやらお前等のことを嗅ぎ回っているみたいですぜィ?」
「え?何で俺等?」
「山本…お前は自分が何なのかを思い出せ。俺等はこの世界の人間じゃないだろうが」

自分達を嗅ぎ回る理由など、それしか思い当たらない。一体どういうつもりだ。

「伊東も真選組幹部だから知っていてもおかしくはない。だが、気を付けることだな」
「あっ、沖田さん」

沖田はそのまま歩いていってしまう。

「…何で俺等の事嗅ぎ回るンだよ」
「異世界から来たからじゃね?」
「だから!何でその異世界から来た俺等を嗅ぎ回るンだよ!」

山本に頭を使う事は無理だ。自分で考えなければ。
獄寺はため息をついた。あの局長と一番隊隊長の間に挟まれていながらも隊を回せていた土方は、本当は凄い奴なのではないか。
頭の隅でふと思ったのだった。





「間違いない。この表と裏のそろった刃紋。村麻紗だ」

万事屋三人と綱吉。そして何故かオタクになってしまっているの土方は鍛冶屋に来ていた。

万事屋にやってきた土方は、万事屋や綱吉が知っている土方本人だった。真選組の手帳も持っていたのだから間違いない。

だが、綱吉は彼が本当に土方だとは認めたくなかった。
恐い人だが、悪い人ではないのだ。善人ではないのだろうが、悪人ではないのだ。真選組の事を大切にしている、たぶんいい人。それが綱吉の中の土方十四郎なのだ。

自分のイメージを人に押しつけたくはないが、これは酷い。何かあったとしか思えない。彼がフィギュアのために刀を売ろうとするなんて、それしか考えられない。
しかし、その売りたくとも売れない刀が妖刀なのだという。もしかしたらそれが原因かもしれないという話になり、万事屋に馴染みがあるという鍛冶屋にやってきた次第だ。


ヘタレたオタクになる妖刀。そんな妖刀があるはずがないと言いたいが、目の前の土方を見ると否定できない。

しかし、彼女の次の言葉は否定したかった。

「最早、その男の本来の魂は残っていないかもしれない」

鉄子は真剣な目で言う。それは職人の目だった。

「もう本来のそいつは戻ってくる事はないかもしれ…」

鉄子の言葉が途中で止まる。言葉を止めたのは、後ろから流れてくる白い煙だった。それは、いつも彼が吸っている煙草の煙だった。

「お前…ひょっとして……」
「やれやれ。最後の一本吸いに来たら目の前にいるのが……よりによっててめーらたァ」

それは土方だった。綱吉や万事屋が知っている、真選組副長だった。


綱吉は嫌な予感がした。
ここにきて、どうして今さらだと思う。もっと早くこの感覚が来ていれば、これから起きる事を避けることが出来たかもしれない。
そう思ったのは、この全ての事件が終わってからだった。

「頼…む。真選組を…俺の…俺達の真選組を」

土方は妖刀に飲まれそうになりながらも、確かに言った。

「護って…く…れ」

綱吉の超直感は、警報を鳴らしていた。







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