第三章 第零話 33/115
『あんた、一人でここに来たのか?』
『いや、たぶんあと二人いるはずだ。何処にいるかは知らないがな』
『探さないでいいのかよ』
『んー、二人共しっかりしているし、大丈夫だと思うぞ?何かしらの方法で俺を見付けるさ』
『…随分信用してるな』
『仲間だからな』
『何かこう…疑ったりしないのかよ』
『疑う…か。一人心配な奴はいるな。だが、彼奴は俺や来ている二人よりもこういう非常事態に強そうだ』
『自分の今の状況を非常事態で片付けるあんたを、俺は初めて凄いと思ったよ』
『異常現象とも言うのか?ともかく、異世界やら幻術に詳しい奴でな。性格や目的に少し…いや大いに問題がある』
『何でそんな奴仲間にしてんだよ!』
『ふふふ』
『…もし、そいつが裏切ったら?』
『裏切らないと信じている…では答えにならないのだろうな』
『当たり前だ』
『裏切らないと信じているのを前提に、裏切った時の事を考えるのも矛盾している気がするな』
『……』
『んー、何か罰を与えるとかは、あるだろうが、その裏切りの場合で違うし…』
『おう』
『だが、そうだな。裏切られたとしても、少なくとも……』
その言葉の先を、お前は覚えているか?
「晋助。では、拙者は行く」
「おう」
何処かの海の、何処かの船上。
河上万斉は隻眼の男に背を向けて船を降りていった。
隻眼の男――高杉晋助は慣れたように煙管を吸う。
真選組は潰れるだろう。
裏切り者を裏切る、鬼兵隊の手によって。
それを思うだけで、笑いが込み上げて来る。
だが、ふと思い出した事があった。
紫煙の煙を吐きながら、高杉は思う。
あの男の言葉の続きは、何だったか。
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