第二章 第十六話     27/115
 



話は更にさかのぼる。


「・・・・・」
「迷ったのな」
「言われなくても分かってンだよ、野球馬鹿!」
「アハハハ」

獄寺と山本は二人で見覚えがない道を歩いていた。この二人にとっては殆どが見知らぬ道なのだが、常に沖田が一緒にいたので問題はなかった。しかし、今はその沖田はいない。完全なる迷子だ。

「んー、ここどこだ?」
「知るか。少なくとも歌舞伎町に向かっている・・・はずだ」

早く綱吉を見つけ出したいがために、待っていろという命令を無視して朝早く出てきたのに、随分と時間が経ってしまっている。これでは沖田を置いてまで出てきた意味がない。

「取り敢えず、誰かに道聞くか」
「そうだな」

獄寺が頷いて隣を見ると、いるはずの山本はすでにいない。
辺りを見渡すと山本は公園に入っていく所で、獄寺はすぐにその背中を追いかけた。

「おい山本、何で公園に・・・」
「おーい、坊主達」

山本は公園で遊んでいた子供達に声を掛ける。獄寺はそこで山本の意図に気が付いた。山本は子供に道を聞こうとしているのだ。

「『万事屋銀ちゃん』って店知ってるか?」
「こんなガキ共に聞こうとすんじゃ・・・」
「万事屋?知ってるよ。神楽ちゃんの家でしょ?」
「知ってンのかよ!?」

獄寺は予想外の答えで思わず大きい声で聞き返してしまった。子供は驚いたようだが、すぐに獄寺の言葉に頷く。

「万事屋っていったら神楽ちゃんだよ」
「ねぇ。困ったことがあったらすぐに万事屋に来いって言ってるもん」
「仕事あまり来ないみたいだけどね」
「でもさ、この間あそこの天パがパチンコに入って行くの見たぜ?」
「俺も眼鏡がお通ちゃんのグッズ大量に買ってるの見たぞ」

子供達はそれぞれ万事屋の目撃証言を言う。その内容には呆れるが、どうやら知っているのは間違いないようだ。
山本が子供と目線を合わせるようにしゃがみ込み、改めて万事屋の場所を聞こうとしたら、子供の一人が思い出したように言った。

「そう言えば、最近一人増えたよな」
「ああ、あの茶髪か」
「そうそう。さっき神楽と買い物行くって歩いてたぜ?」

山本と獄寺はその言葉に反応した。

「茶髪の奴ってどんな奴だ!?」
「え?何て言うか、大人しそうで、髪が上向いてて・・・」

子供が少しずつ特徴を言う。それは捜している人物と同じだった。

「十代目・・・」

やっと見付けられるかもしれないと思うと、獄寺はついその人物の呼び名を呟いた。

「その人ら、どこ行ったか分かるか?」
「今日の買い物だったらすぐそこのデパートじゃね?俺の母ちゃんと妹が全品割引だって今行ってるし」

サッカーボールを持った男の子がそう言うと山本は簡単に礼を行って立ち上がる。
獄寺はすでに移動して公園の入り口で待っている。山本は走ってそこまで行き、立ち止まることなく獄寺とそのままデパートまで向かった。





デパートにたどり着いた二人は取り敢えず中に入ってみた。
当たり前だが中は広く、人も多い。それがまだ上の階まであるのだから、ここから綱吉を捜すのは大変だ。すでに買い物を終えて帰ってしまっている可能性もある。
山本は困ったように頭を掻く。
「全七階かぁ・・・。大変そうなのな」
「馬鹿が。七階目は改装中で立ち入り禁止って書いてあんだろうが。それに受付かどこかに行って、放送で呼んでもらえばいいンだよ」

獄寺は当たり前のように言うが、山本は感動したように口を開けている。

「獄寺・・・お前頭いいな」
「お前が考えなしの野球馬鹿なだけだ!」

いったいどうやって捜すつもりだったんだと、獄寺は舌打ちをしてから歩き出す。山本は笑いながらそれについて行き、彼が受付に話しかけるのを後ろから見ていた。

「おい」
「はい・・・!?」

受付嬢は獄寺を見ると驚いたように目を見開いた。
獄寺と山本はその理由が分からなかったが、すぐに自分の着ている服が今は真選組の隊服だということに思い当たる。真選組は自分たちの世界でいえば警察だ。その警察が急に制服姿で現れたらそれは驚くだろう。

「あの・・・何か事件でしょうか?」
「いや、違う!ちょっと人を捜してる」

事件ではないと言うと受付嬢は明らかにほっと息をつき、顔に貼り付けていた営業スマイルを復活させた。

「放送か何かで呼ぶことは出来るか?」
「はい。それではその方のお名前は・・・」

受付嬢はペンを握り、名前をメモする形になる。
スムーズに事が運べそうだ。獄寺はさっそく呼んでもらおうとするが・・・。

この世界は彼らに優しく出来ていないようだ。



ズドーーーーーン!!!



爆発音と激しい揺れ。品物は落ち、棚は倒れて悲鳴が店内に響き渡る。
獄寺と山本は突然の出来事に驚くが、それ以上に驚いているのが客や目の前の受付嬢だ。

「きゃぁぁぁ!何!?テロ!?」

机の下に隠れた彼女は悲鳴を上げて言葉も素に戻っている。

「上への階段は!」
「み、右に職員用階段が・・・」

獄寺の剣幕に気圧されながらも机の下から顔を出した受付嬢は右を指さす。
先には確かに階段がある。獄寺は山本と頷き合い、階段へと足を向ける。

「客を避難させろ!」

獄寺はそう言い残し、爆発がした上へ向かうために階段を駆け上がる。

「事故か?テロか?」
「知るか!事故にしろ事件にしろ、どうしてこうタイミング悪く爆発が起こるんだよ!」

せっかくもう少しで十代目が見つかるかもしれなかったのに!
獄寺は叫びながら階段を登る速度を上げる。話ながら走ればすぐに息が切れるかもしれないが、苛立ちを口に出さずにはいられなかった。
もしコレが事件だったとしたら、犯人を果たしてやると心に誓う。

「十代目は避難しているか・・・」
「んー、もう帰ってる線もあるけど、もしツナがいたら・・・」


すぐに駆け付けンじゃね?


山本は何気なく言ったが、獄寺もそのように考える。彼ならば駆け付けて、この惨事をどうにかしようとするだろう。

そしてそれは間違ってはいなかった。

六階まで辿り着き、もう一階上がろうとしたときに、声が聞こえた。


「もう――は通れそ――ないの――――はこっち―――階段から避――ます!」


必死に叫ばれるその声は、捜している人の声で。

立ち止まり、半分ほど登った七階への階段を再び下りる。
六階のフロアに出ると、天井が崩れてきたようで、所々道が塞がれている。

まだ聞こえる声を頼りに二人は走る。

声が近づいてくると、小さな女の子とチャイナ服の少女、そして捜していた彼の人の後ろ姿を見付ける。


ようやく見付けた。


二人は同時に彼の名を呼んでいた。






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