第二章 第十二話     23/115
 


「・・・山崎、もう一度言え」
「・・・副長、何度言っても同じだと思います」

二人だけの副長室。そこは奇妙な雰囲気に包まれていた。
向かい合っているのに目を合わせる事が出来ない。山崎は土方の目を見る勇気はなかった。

(まだ会ったこともない『綱吉君』・・・俺は君を恨みます)

山崎は再び土方に報告した。

「最後の五人目は、万事屋にいるかと思われます」

山崎の再調査の結果。公園にいた茶髪の少年は、大きな犬を連れた少女と地味な眼鏡の少年と一緒に公園を去ったらしい。
その上、万事屋に茶髪の居候が増えたという情報も入った。これは公園にいた少年だと思って良いだろう。
この少年が『沢田綱吉』でない可能性も、もちろんある。だが、調査に挙がっていた他の四人は別人だったらしいので、万事屋にいる少年が『沢田綱吉』の可能性は高いと見てもいいだろう。
それに・・・。

(万事屋の旦那・・・よく厄介ごとに巻き込まれるからなぁ)

今回も巻き込まれているのかもしれない。いや、巻き込まれているのだろう。あそこはトラブルの巣窟だ。

「・・・どうしますか、副長」
「・・・」

土方は思い出していた。数日前のスーパーでの出来事を。
新八と一緒にいた子供。特徴は一致していたが、あの生意気なガキ(獄寺)があの子供を尊敬するはずがないと思い、違うと判断した。しかし、残っている候補はもうあの子供だけ。そうなると・・・。

「・・・あのガキが・・・ねぇ」
「副長?」
「何でもねぇ。総悟達に伝えろ。もう起きてンだろう」
「はい」

今はまだ早朝。朝ご飯も食べている者は少ない。
最近では朝早く起きた山本と獄寺が沖田を起こして捜索を急かしているので、最初に沖田の部屋に行った方が良いだろう。うまくいけば三人ともいるかもしれない。

山崎は副長室を後にした。





「サッサと起きろ!ドS野郎!」
「沖田さーん。朝なのな」
「うるせィ黙れガキ共。土方さんの犬のエサ食わすぞ」

沖田の部屋が見えてくると中から声が聞こえる。今まさに起こしている所のようだ。
タイミングがいい。このまま入って報告をしよう。
そう思った山崎が沖田の部屋の襖を開けようとすると・・・。


ドカーーーン!!


爆発がして襖ごと山崎は吹き飛ばされた。
気絶はしないですんだが、突然の爆発で驚いた。しかし倒れながらも部屋の中を見ると、予想通り沖田が発射したままの態勢でバズーカを構えている。獄寺と山本は避けたようで、体勢は崩しているが無傷だ。

この二人は本当に凄い。こちらの世界に来てまだ一週間ほどなのに、もう順応している。そして何よりも、戦い慣れている。
そのことは土方や沖田、近藤を始めとした真選組の何人かは気付いている。
実は捜索中に浪士の襲撃を受けたらしいのだが、二人はそれに慌てたりせずに応戦したというのだ。
山本は竹刀だと思っていたモノを刀と変え、獄寺はダイナマイトを取り出して戦ったという。沖田は最初襲撃されたら守るつもりだったようだが、その必要は全くなかったと言っていた。

この二人は一体どんな生活を送っていたのだか。浪士の襲撃を返り討ちにできるとは。
忙しくてゆっくり話す余裕がなかったが、今度是非とも聞いてみたい。

「てめぇ・・・朝っぱらからバズーカ撃つんじゃねえ!」
「朝っぱらから怒鳴るんじゃねぇ。教育がなってねぇぜ」
「沖田さん。はよッス」

何事も無かったように話し出す三人。吹き飛ばされた山崎に気付いた様子はなく、恐らくこのまま何のアクションも起こさなかったら気付かれることなく終わるだろう。
だがそう言う訳にはいかない。こちらには仕事があるのだ。

一緒に吹き飛ばされた襖だった物の下から這い出ると、山本が気付いてくれた。

「あっ、山崎さん。はよッス」
「おはよう山本君」

爽やかな笑顔で挨拶をする山本。彼はどこに行ってもそこの良心となるだろう。挨拶をしてくれない獄寺や沖田とえらい違いだ。

「どうしたんでィ、山崎。やけに早いじゃねぇか」
「報告ですよ。行方が分からなかった五人目の所在が判明しました」
「本当か!」
「てめぇ、今度こそ十代目何だろうな?この間は四人とも人違いだったじゃねぇか」

不機嫌な獄寺が子供とは思えない迫力で睨んでくる。真選組の中にはこの睨みで獄寺に話しかけられない者もいるが、山崎は土方で慣れているので大して恐くない。まさかあの鬼副長のお陰で自分に睨みに対する耐性が出来ていたとは。全く嬉しくない。本当に嬉しくない。

「で、山崎。どこでィ」
「それが、万事屋みたい何です」
「旦那のとこ?」

沖田が眠そうだった目を開いて、驚いたようにこちらを見る。
万事屋と聞いてもピンと来ない二人は驚いている沖田を見て、次にこちらを見る。

「・・・知り合いか?」
「んー、たぶん。歌舞伎町の『万事屋銀ちゃん』っていう何でも屋何だけど、仲が良いかと言われれば違うし、犬猿の仲かと言われれば助けたこともあれば助けられたこともあるし・・・」
「どっちだよ」
「悪い人達じゃないよ」

山崎は困ったように言う。万事屋と真選組の関係を言葉で表すとどうなるのだろうか?
土方と銀時の仲は最悪だが、沖田とはいいコンビだと思うし、しかしその沖田と神楽の仲は悪いし、近藤は新八の姉をストーカーしている。
どことなく持ちつ持たれつのような関係だ。

「腐れ縁でさぁ」

沖田は一言そう言って立ち上がり、寝間着姿から着替えだした。

「万事屋の旦那の所だったら心配ねぇだろ。チャイナに会うのは癪だが、飯食ったら行くぜィ」
「すぐ行くんじゃねぇのかよ!」
「お前なぁ、時間考えろィ。あの旦那達がもう起きているとは思えねぇや。飯食って、何か手みやげ買って丁度良い時間だろ」

獄寺は不満そうに黙り、山本も困ったように頬を掻いている。
沖田の言いたいことも分かる。万事屋に行ってもまだ寝ているだろうし、知り合いの家だから大丈夫だろうと思っているのだろう。
しかし、二人の気持ちも分かる。二人は万事屋の人を知らないし、もう一週間友達は行方不明状態なのだ。心配だろう。早く会いたいはずだ。

「お前らは先に食堂行ってろィ。俺もすぐ行く」

沖田は眠そうに欠伸をする。
二人はしぶしぶ部屋から出て行ったが、その背中には今すぐ行きたいという思いがはっきりとあった。

「何か、今にも飛び出していきそうですね」
「まぁ、あいつらもそこまで馬鹿じゃねぇだろ」

二人は万事屋の場所を知らないのだ。少なくとも沖田が行くまでは待っているだろう。
しかし、その考えは甘かった。



沖田が食堂に行ったら、二人の姿はすでになかった。





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